決着をつけに


部室の前まで来た。


お互いの心中を確かめてうなずく。
そのまま部室のドアを思いっきり開けた。


『失礼します』


その声に反応して、先輩たちが私を見る。
その目はとても冷たかった。


「何の用だ」


明らかに怒っている跡部先輩。
そして、宍戸先輩を除く先輩たち。




『皆さんに、何が真実で何が偽りなのか…全てお教えします。船曳さん、お願い』

「ほい了解」


船曳さんが前に出て、すすり泣く中谷先輩に近づいた。
すぐに盾になろうと動き出したのは跡部先輩。



「紗江に近寄るなッ!!!」

「先輩ら、ちょっと黙っててください」

「てめぇ……っ!!」

「落ち着きや、跡部…。それより、俺らのロッカーこんなにしたんは自分やろ?
まずそれを謝んのが先やないんか。」



『謝るつもりはありません。私は何もやっていないから。』

「じゃあ誰がやったんだよ!!こんなことすんのお前しかいねぇだろ!!!?」

「せやから、この写真見てくださいよ。あんたは、覚えてはりますよね?
今朝の事やもんなぁ、忘れるはずないですよね?」

「……っ!!」


船曳さんが中谷先輩の前で写真をひらひらさせる。
その写真に写ってる予想外のものに、中谷先輩の顔は歪んだ。
撮られていたなんて、思ってなかったのだろう。

てか全然ばれなかったのか。すごいな船曳さん。

船曳さんの写真を跡部先輩がひったくる。


「何だよ、これ…」

「ここに写ってるの…紗江……?」

「惑わされてんじゃねぇ!!!こんなの合成だ、作りもんに決まってんだろ!!!
てめぇはここまでして、紗江を傷つけたいのかっ!!!」

『……っ!!』

「如月っ!!!」


怒り狂って襲い掛かってきた跡部先輩は、私の胸倉をつかんで壁に叩きつけた。
日吉が助けにこようとしたのを止めて最後の指示を出す。


『さい、おんじ…さん、お…ねが、します……っ!!』


私がそう言ってすぐ、スピーカーからノイズ混じりの音が放送された。





「紫帆ちゃん、若といい感じなんだってね?」

『ええ、まぁ…おかげさまで』

「二人の仲を引き離してやろうと思ったのに…また失敗しちゃった
味方になって欲しかったのになぁ〜

ねぇ、どうやったら味方になってくれると思う?」



『どうでしょうね…日吉はどうであれ、私が“若”を先輩に渡す予定がないので』


「そっか…じゃぁ、脅したりしたらいいかなぁ?
紫帆の名前出したらすぐ味方になってくれそうだよね?」


『先輩…むなしくないですか?嘘ついて作った仲間なんていても…』


「虚しくなんかないよ。皆大切に扱ってくれるじゃない。優しいよ?景吾も侑士も…」

『可哀想ですよ先輩』

「騙されてる皆が?」

『いいえ、先輩自身がです。』





音が消えた。ここにいる全員が息呑んだ。
先輩たちは全員その場に立ち尽くしていた。

下を向いて、ただ…その場に。


この部屋で堂々と前を向いていられるのは、私達だけだった。



『これが、真実です』

「じゃあ、俺達がしたことって…」

「嘘や……なぁ、嘘やろ?紗江はこんな事せんやろ?………なぁっ!!?
…何で…何で何も言わんねん…っ」

「…………っ、ごめ、なさ……っ!!」


忍足先輩が中谷先輩に掴みかかった。そして、彼女は負けを認めた。



「全部私がやった……」

「紗江、どうして…」

「志帆ちゃんが羨ましかった…。

マネージャーってだけで、テニス部に好かれて…なのに私は、仕事したって全然何もなくて!!同学年の子にだって、全然………っ!!
志帆ちゃんばっかりで、羨ましかった!!だから、全部奪いたくなったの!!」

「ふざけんじゃねぇ!!」

「っ!!?」

『ひ、日吉…?』


日吉が叫び、そして中谷先輩に詰め寄る。


「志帆の事何も知らないお前がこれ以上アイツに暴言吐くなッ!!
あんた、志帆がここまでくるのに、どれだけ努力したか知ってるか!?

毎朝俺達より早く来て準備して、同学年の嫌がらせも、ファンクラブからの嫌がらせも、何もかも全部一人で耐えたんだ!!!

あんたにこれが出来るか!?
出来ねぇよな。たった1ヶ月かそこらで挫折したんだもんな!!出来る訳ねえよな!!!」

『日吉、ちょっと待って。』

「お前はいいのかよ、舐められたまんまで!!」

『舐められたままなんかにはしないよ。私今すごい怒ってるんだから。』


私は、日吉をどかして中谷先輩の前に座った。



『中谷先輩、先輩がこんな事しなくたって貴方をわかってくれてた人 たくさんいますよ?
先輩を信じて守ろうとした跡部先輩達は、少なくともちゃんと先輩を評価していました。
その評価をぐちゃぐちゃに潰して、裏切ったのは先輩です
私だって………私だって先輩のこと大好きだったのに!!』

「え?」

『ずっと女の先輩が欲しかったから!!
中谷先輩が入部してくれたとき、本当に嬉しかった!!

大好きだった!!中谷先輩がっ!!
お姉さんみたいで、優しくて……

憧れの先輩だった!!
なのに…』



嫌われたのが、悔しかった……



『何で、私の事嫌いになっちゃったんですかっ!!?』

「ご、めんね…?ごめんなさい……志帆ちゃん、ごめ、なさ………っ」

『先輩、今でも私のこと嫌いですか?』





泣きながら、私に謝る中谷先輩にそう聞いた




嗚咽交じりに返ってきた答えは、










「大好き……っ」


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