あなただけは違った


如月さんだけは違った。

職員室の前に飾られた私の絵。
全国コンクールで優勝した時のものだった。
絵を描くことが昔から好きだった私にとってあれほど嬉しかった事はなかった

けれど、その絵をみて他人が言うのは非難の言葉だった。

悔しかった。誰も本当の私を見てくれない事が。
正々堂々やっているのに正当に評価されない事が。

たまらなく悔しかった。

どうしてお金持ちの家に生まれて来たんだろう。どうして私だけ特別扱いなんだろう。
考えたって、悩んだって仕方のないことだって解ってるけど考えずにはいられない。

そんな時だった。



『綺麗…』


私の絵の前に立っている少女は確かにそう言った。
その絵にとっては初めて言われた褒め言葉だった。

絵が輝いたように見えた。



「え〜!!志帆知ってる?これ西園寺マリアが描いたやつだよ!?」

『だから?』

「は…?」

『だから何?西園寺さんが描いた絵はどうして駄目なの?』

「何言ってんの?この絵だって西園寺が描いたかどうかなんてわかんないじゃない!!」

『西園寺さんが描いたんだよ。私はこの絵を西園寺さんが描いてたの見たんだから!!』

「え〜何、志帆西園寺の味方すんの?」

「うわ、キモ…」

『キモくないっ!!』



何だこの子は、と思った。なぜ周りに流されないのか。
何故そんな容易に流れに逆らえるのか。

不思議だった。



次の日、彼女は私に声をかけてきた
『ここの問題教えて!!』と。


驚いた、教室に居る全員が。数学の問題集を片手に前の席に座った如月さんは顔を真っ赤にして私を見ている。


『あのね、ここなの!!難しくて訳わかんないの!!』

「ここ…ですか…?」

『そうなの』

「これは……」


特にこれといって難しい問題ではなかった。
私が出来る最大限にわかりやすく彼女に教えた。


「だから、これが証明出来るんです」

『なるほど!!ほら!!みゆちゃん達が解らなかった問題、西園寺さんは解けたよ?これでも贔屓だって言うの!?』


さっきよりも顔を真っ赤にして叫んだ如月さん。

教室内が静けさに包まれた。
一番始めに動いたのは如月さんと同じグループの子。




「西園寺さんごめんなさい!!」

「私達西園寺さんの事、誤解してた…」

「いいんです。頭をあげてくださいな。」


彼女たちに続いてクラス全員が集まって頭を下げた。


「許してくれるの…?」

「もちろんですわ。許すも何も、怒ってなんていませんもの。
だけど1つだけお願い、聞いていただけませんか?」

『何?なんでも言って!!』


そう元気に返事をした如月さん。


私の、お願いは…


「友達に、なってくれませんか?」



そう言った私に、
クラスメート全員が笑って了承してくれた。

それが、本当に嬉しかった




だから私は、貴方を助けたいんです。
私を地の底から連れ出してくれた貴方を………

何もかもに失望しかけていた私にたくさんの希望をくれた貴方を。


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