ちょっとした昔話



「何落ち込んでんねん」

『…足手まといだな、私…』


西園寺さんに置いてかれたと思っているのか、俯いてため息を吐く如月志帆。
まったく検討違いなんやけど、本人はそう思っていないらしい。
何が足手まといやねん。


「西園寺さんはあんたが足引っ張るからここに残したんやないで」

『うん、わかってる。でも、こんなに支えてもらってるのに私はなにも出来ないなって』


それが分かっててなんでうな垂れとるんや。
ホンマに訳の分からない子やな。


「………ちょっと昔話しよか」

『昔話?』

「おん。西園寺さんがあんたに助けられた時の話。何で西園寺さんがここまでアンタの面倒見るか。本当は話したらアカンのやけど」


一年前やった。

西園寺マリアは西園寺財閥の一人娘。
学校は彼女の機嫌損ねたりしないように細心の注意を払っていた。しかしその行動は、他の生徒から見たらただのえこひいき。

そのため彼女はずっと一人やった。

表立ったいじめはなくても裏でコソコソ謀られ、彼女はもはや人間というそのものに失望しかけていた。
媚を売ってくる教師達も、つまらないいじめをしてくるクラスメートも、変に気取る両親達も、彼女を失望させるには十分過ぎるものだったろう。


テストで高得点を採っても何しても誰にも認めて貰えん。
実力ではないんじゃないかとさえ言われる始末。


「でも、あんただけは違たんや」


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