熱
「…と言う訳でした。」
俺は言葉が出なかった。
夏美の話を聞いた。春樹が敵だと言った男はこいつの事だったんだな。
あぁ、その時俺が夏美の傍にいられたなら…。
そんなバカな事ばかり考えていた。
「ね、気持ち悪いでしょう。だから…」
「だからなんだ?」
離れて。彼女はそう言った。
搾り出すようなか細い声だった。
俺はこいつの何を見ていたんだろう。こいつが転校してきて珍獣呼ばわりしていたが、こいつの何処が珍獣だ。
あれは、自分の弱さを隠すためのカモフラージュだったんだ。
その事に気付けない自分が情けなかった。
「さっきも言っただろ。俺は離れない。絶対に。」
「私よりいい女の子なんていっぱいいいるじゃない。」
「お前は一人しかいない。」
「何それ…バカじゃないの」
「馬鹿で構わん。それでもお前といたい」
和博と過ごした時間には程遠くても、俺はそいつ以上に夏美を思っている。愛している。
胸の奥が熱い。
じわじわと何かがこみ上げてくる。
「夏美…」
夏美の手を強く握ってみた。
小さく震えた。
「好きだ」
人生で一番の想いを夏美の唇に落とした。
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