すり抜けていった


名前が俺の手をすり抜け、落下していった瞬間俺の世界は闇と化した。




最近名前の様子がおかしい。
俺が何かあったのかと尋ねてもあいつは大丈夫だと、疲れているだけだと、笑っていたんだ。

後悔した。ただ俺は自分がどんなに馬鹿であったのかを思い知らされた。
何故もっと深く追及しなかったのだろう。
何故彼女の話を俺は聞いてやらなかったのだろう。


さっきまでひまわりのように笑っていた彼女は、今うっすらと冷えたような笑みで俺を見る。



放課後の部活になかなか名前がこない。
心配であいつに電話をしようと携帯を出した。


“1件の新着メールがあります”


名前かもしれないと思ってひらいたメールはやはり名前からのものだった。

しかしその内容は予想外のものだった。






“有人。今までありがとう。
愛してる。さようなら”






走った。

嫌な予感がした。怖かった。どうしようもなく怖かった。

俺は屋上へと向かった。あいつは屋上が大好きだった。空がここで一番近い、と。
絶対にそこにいると思った。





「名前…」

『有人…』


いた…名前は確かにいた。
だが、あいつが今一体何をしようとしているのだろう。


何故フェンスを越えて…あんなところに…?
あと小さく一歩でも踏み出してしまったら落ちるぞ?



“さようなら”



彼女はそう言った。



嫌だ

あいつが、名前がいなくなるなんて
だから叫んだ。



「名前!!」


こっちをむいてくれ
そこから早く俺のところに来てくれ




「名前っ!!今すぐこっちにこいっ!!!」


泣かないでくれ。返事をしてくれ。



「名前!!!」

『ゆう…と』


彼女は振り向いた。
そして笑顔を作って俺に言った。






『さようなら。有人』



“さようなら”


やめろ…



「名前…俺が何かしたのなら謝る!!
だから…俺の前からいなくなるなんてこと…やめてくれ…」


涙が溢れる。心臓が破裂しそうなほど大きくそして早く打つ。




『今までありがとう。』




やめろ…嫌だ。あいつがいなくなてしまう



嫌だ




名前に向かって思い切り手を伸ばした
この手をとってくれ…名前ッ!!






『愛してる』





あいつはそう呟くと…



俺の前から


消えた…。

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