現実

『あなたは誰ですか?』



鬼「…何を…」


一体お前は何を言ってるんだ?
俺はお前の恋人で…


鬼「名前…?」


冗談はやめろよ





ガッ



『っ…』


円「鬼道!!!」



俺はわけがわからなくなって桜につかみかかった。
痛そうに顔をゆがめる名前は、本当のことを言おうとしない…


鬼「名前っ!!俺は…「何しているの!?」


俺はお前に会いたくて会いたくて仕方なかったんだと続けるはずの言葉は、雷門夏未によってさえぎられた。



『夏未っ…』

俺の手から体をひねって抜け出した名前は雷門夏未に駆け寄った。



夏「鬼道君…ね?」


鬼「あぁ」


夏「話があるの。ついて来てくれるかしら?」



話…だと?

俺が話したいのはお前じゃない。
名前だ。

けれど名前はさっきの俺の行動で、おびえきっている…


鬼(仕方がない…)


そう思って俺は雷門夏未についていった。
行き先は理事長室。

最初に口を開いたのは雷門だった。


夏「驚いたでしょう?名前のこと…」


鬼「名前に何があった?」


こいつは…名前のことについて何か知っている?


夏「名前はね…









記憶喪失なの…」 


鬼「!!!」



記憶喪失?

記憶がないのか?
俺のことも忘れているのか?


鬼「どういうことなんだ…?
詳しく話を聞かせてくれ。」


夏「…」


雷門は小さくうなずいて話し始めた。

名前とは小学校からの仲で、名前が滞りなく転校できたのは雷門夏未の取り計らいによるものだった。


鬼「そうか…
じゃぁ何故名前は自殺を図った?」


夏「!!気づいていなかったの!!!??」


鬼「?…どういうことだ…?」


夏「名前はいじめにあっていたのよ!!!」


鬼「!!!なんだと?」


いじめ?
そんなそぶり全くなかった…

隠していた?
何故?



決まってる…





俺に心配かけたくなかったからに決まってる…


夏「名前の記憶喪失は一部。


帝国学園に通っていたときのこと…」



鬼「戻るのか?」

夏「医者は、確実に戻るが時間はかかると言っていたわ・・・」


鬼「戻す方法は?」


夏「もう一度大きなショックを与えるか、あの子が帝国での生活で最も印象に残っているものを見せるか…それしか方法はないわ……」


鬼「そうか…」




俺は…


俺はずっと名前のことを一番わかっているのは自分だと思っていた。

だけど…あいつの変化に気づけなかった。


なのに、さっき怒鳴りつけたりして…

最低だ。



俺は最低の人間だ…



記憶を戻す方法は2つ…

同じショックを与えるか、名前の一番印象に残っている出来事を再現すること。



あいつに同じだけのショックを与えることにはあまり賛同できなかった。

なぜなら、もしショックを与えたことで意識が戻らなかったら?記憶が戻らなくなったら?考えただけでも恐ろしい。


だけど…名前の印象に残っていることが何なのかわからない。


情けない…

あれだけ一緒にいたのにわからないなんて…




ごめんな名前…


俺は、何にも知らなかったんだ。
お前のこと



本当にごめん





鬼「名前…っ」





夏「鬼道君…名前には、帝国であったことはまだ話していないの。
あの子は、自分の記憶喪失の原因は交通事故だとおもっている」


鬼「…あぁ。名前が自力で思い出すまで俺は待つ」



夏「えぇ…」





雷門に聞いた事がぐるぐる頭の中を回る。


グラウンドに戻ると、木野と話しながらドリンクを並べている名前が目に入る。


鬼「名前…」


俺の呟きが聞こえたのか…?
こっちを向いた名前は、少しおびえた表情を見せた。


そんな顔が見たいんじゃない…

俺は…




鬼「名前」


今度はちゃんと聞こえるように名前を呼ぶと、名前はぎこちなく返事をした。


名前の声…

俺は名前に少しづつ近づいて




抱きしめた。


『!!!!』


鬼「さっきはすまなかった。急に怒鳴ったりして…」


さっきとは違い、優しくぎゅっと抱きしめる。

あたたかい…


安心したのか名前の体に入った力が少し抜けた。


『鬼道君…?私記憶無くて、あなたが誰かわからないの…』

鬼「あぁ。さっき雷門から聞いた。知らなかったんだ。お前が記憶喪失だってこと…」

『そっか…
鬼道君は、私とどんな関係だったの?』


その問いには目を合わせて答えたかった。

名前を抱きしめていた腕を肩において
名前の目を見る。



鬼「恋人だ…」

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