・一万打企画より、嫉妬ネタ
・多分甘いです
・+旦那様、


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蓄音機から流れる旋律が荒んだ心を溶かす。本来なら穏やかな休日に穏やかな時間を過ごし日頃の疲れを癒す予定であったのだから、この状況は心底不服な事だ。しかもよりによってアフタヌーンティーの時間に。


「で?トランシー家の当主御自ら足を運ぶとは如何いった風の吹き回しだ」


皿の上に乗ったベリーのタルトをフォークで切り分けながら問い口に運ぶとやはり甘美な味が広がった。正直な所アロイスの返答など興味は毛頭無かったが僕には一つだけ気掛かりな事がある。

「そんな事言わずに仲良くしてよ、本当にキミって俺の事嫌いだよね。」

「……第一今日の晩餐には予定が入っているんだが、」

まるで僕の話は聞いていなかったかの様にフォークをくるり、と回転させながら愉しげに笑みを浮かべたまま奴は残りのケーキを一刺しして口に運んだ。するとアクアブルーの瞳と視線が合った瞬間鼓膜を擽るのは下らない、笑い声。


「ハァ?もう手遅れじゃん。」


「何が、」


“だ”と言う僕の語尾はかき消された。応接室が勢い良く開く音と甲高い声によって。

「シエルー!」

そう、僕の気掛かりはこの金糸の様なツインテールを揺らし僕に飛びつくこの許嫁の事で今正しく僕の気掛かりは悪い意味で解消した。最悪だ。

「待ちきれなくて早めに出てきちゃった!」

「エリザベ……リジー、く、苦し」


背中をぽんぽん、と軽く叩き小さく抵抗をしてみると漸く体が離れ酸素を充分に取り込む。が、果たして目の前で満面の笑みを携える少女は気付いているのだろうか。溜め息を漏らしながらもう一方の客人に視線を遣ると丁度ケーキを食べ終えた様子で立ち上がり此方に向かって一歩二歩、
そうしてなんとエリザベスの片手をそっと掬い指先に唇を落とした。

「お久しぶりです、レディ・エリザベス。」

柔和かつ無邪気に微笑みながら腰を曲げればお決まりの台詞だ。――相変わらず上出来な猫かぶりじゃないか、下らない。ほんの少し僕の眉間には皺が刻まれただろうがそれを隠す様にアッサムの香りが鼻腔を擽るティーカップに口を付ける。嗚呼、気に入らない、気に入らない気に入らない。

「ト、トランシー伯爵…!ごめんなさい私ったらご挨拶もしないで…お母様にまた叱られちゃうわ…」

「いえ、面白いものを見せて貰ったので充分です」

不意に視線を上げると何とも嫌みな笑みを浮かべたままのアロイスと視線が合う。現在この表情はエリザベスからは見えておらず、アロイスの背後に突っ立っている彼女の表情はとても不思議そうにエメラルドグリーンが揺らいでいた。僕はそれを確認すると口内に広がる紅茶特有の柔らかな渋みに瞳を閉じ、それを飲み込むと自然と息が漏れる。

「からかっているつもりか、トランシー卿。」

「アハハ、滅相も無い。」

……何が滅相も無い、だ。目を細める奴の懇談を把握した所で仕方無しに僕は腰を上げる事にした。斯くして僕はエリザベスの前に一歩、二歩と歩み寄り立ち止まる。そうしてあくまでも淡々としたままエリザベスの手を掬い仰々しく一礼しながら僕は顔を上げた。

みるみる内に目の前に広がる少女の笑みを見ると僕を侵食していた苛立ちは息絶えた。そうして僕は知る。


笑顔の裏の裏
 
 
嫉妬という感情の意味を、笑顔に添えて。


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追記。
お題、お借りしました!






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