酸素。(正沙)
  

・色々捏造
・沙樹ちゃんが感情表現に難あり設定
・相互記念。マサちゃんへの捧げものです。

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ぽたり、ぽたりと雫が頬を濡らす。正臣の黄糸の髪を伝ってそれが顔に掛る度仄かに私と同じシャンプーの香りが鼻腔を擽って、強張った身体は何と無く力が抜けた。その所為で安心してベッドに身を任す事が出来ると彼は少しほっとした様に瞳を細めるのだ。そんな彼は少しだけ哀しそうな瞳を瞬かせながら笑っては沙樹、ごめんな。とだけ言うとゆっくりと指先が頬を伝わせ、何を言うでも無く唇を重ねた。この瞬間いつも安心感と不安が混沌した訳の解らぬ状況に陥って目を閉じる事が出来ずにいる。此処に居るのは紛れも無く正臣で、私に触れて居るのも紛れも無く正臣で、他の誰かを見ていたく無くて蜂蜜色を瞳に写していないとやはり不安でどうしようも無い。目を閉じてしまえば見たくもないものを見て正臣を傷つけてしまうから。すると突如脇腹に何故か正臣の指先が這い、言うまでも無くお腹の底がふわりと浮く様な感覚に堪えきれず胸を押してしまった。ふ、と微かな息が零れる。

「ちょっと、正臣…擽ったいよ。」

「それが目的だから良いんだよ。」

「なんも良く無いよ、え…ちょっと…っふふ、やめ、っ正臣って、ば!」

「んー。よし、こんなもんかな。」

「何が?」

「……だからさ、ちゃんと笑えたろ。」

その言葉の意味を咀嚼して飲み飲んだ瞬間私は少し泣きそうになってしまった。と言っても未だ泣く事が出来無い私は涙を流す変わりに正臣の首にゆっくりと腕を回して、静かに目を閉じたまま額を合わせた。今までだってずっと、ずっと、正臣は私の隣でこうして笑っててくれたのに。馬鹿だね、正臣は。本当に馬鹿だよ。


「正臣は、馬鹿だよ。」

「馬鹿馬鹿ってお前なぁ、沙樹も充分馬鹿だよ。」

「じゃあ、似たもの同士だね。」


触れた箇所がじんわりと熱く、鼓動がやけに煩く響いた。視線が重なると指先を絡ませて力を込め握る、掌から伝わる熱が鬱陶しいのにこんなにも嬉しくて、どうしようも無い。ねぇ、正臣。泣きそうな顔してるの知ってるの。

「沙樹さ、お前……」

「…正臣、」

「お前今自分で泣いてるの、解ってるのか。」

正臣に言われて漸く解った。頬を伝う生温い感触も胸の痛みも、視界が霞んで見えるのも全て私が今生み出してる感情で、今までずっと壊れて居た私の中のこの感情表現が今修復したらしいという事。指先を自分の頬に滑らせるとしたり、と濡れていて、止まらないこの感情が私は愛しくて、嬉しくて、仕方が無い。

「俺は今、凄い嬉しいよ。沙樹。」

彼はそう言って私を抱き寄せて、私の肩に顔を突っ伏しながら背中に回した腕に精一杯力を込めて私を抱きしめてくれた。けれどその手は震えていて、正臣は時折声にならない声を漏らしながら、さき、さき。とだけ言っていた。


「なぁ、沙樹。辛い時はもう、笑わなくて良い。こうして泣いてくれれば俺は、それで良いからよ。」

「うん。」

「別に今すぐにとは言わねぇよ。けど、頼ってくれ。頼むから。」


「馬鹿だね、正臣は。」


(優しすぎる貴方を手放す強さは、まだ無いのに)








2012/08/02 21:04

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