愛と欲望とスカートと。(悠高)
  


・多分甘め。
・只悠太くんが悶々とするお話。

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冷え切った空気を吸い込むと廊下にはコツコツと俺たちの足音だけが響いていた。外はもう日が暮れて夕方頃から降るとか何とか言っていたお天気お姉さんの言う通りにはらはらと雪が舞い散っている。只、高橋さんの横顔だけは不相応にも赤み帯びていて触れると凍えた指先は其れに溶かされる様に熱を孕んでいる。

「ご、ごめんね。悠太君にまで迷惑掛けちゃって…」

「いや、全然。…保健室まで歩ける?」

マフラーを口元まで隠す様に覆うと声がくぐもる。瞳がほんの僅か虚ろげなのは何を隠そう彼女が熱を出している訳で、実に体が辛そうなのは目に見えて解る程だった。おぼつかない足を支える為にと背中に回した手が何と無くもどかしいと思ってしまう自分にほとほと呆れるけれど、そんな下ら無い欲望は見て見ぬ振りをするが勝ちだ。

「大丈夫だよ、全然元気…だから。」

今流行りのインフルエンザだろうか、それとも只の風邪だろうか。そんな思考を巡らせながらも意識は自然と柔らかに揺れる髪とか掌越しに伝わる高橋さんの感触とか、本当に情けないけれどそんな事で。心配と欲望が混沌としたまま冷たい空気を纏う廊下を歩いていると何時の間にか視線を僅かに掠る保健室の文字。一室の扉にてを掛け、失礼しますとお決まりの挨拶を告げると返答無し、人気も無し。無人であった其処には机の上にメモが一枚、『20分程席を外します。』と簡潔な言葉が綴られていた。

「…高橋さん。取り敢えず、熱計って休んでなよ。保険医来たら俺が言っておくんで。」

「え、だ…大丈夫だよ!其処までして貰ったら申し訳ない、です…」

首を横に振り乍らも僅かに困った様な表情がまたもどかしくて、けれど彼女の体調が心配で。焦る高橋さんをさて置き俺はリュックとコートを下ろして救急箱を取り出すと其処から体温計を取り出して高橋さんに差し出した。多分強行手段にでも出ないとこの子は大丈夫としか言わないと思うし罪悪感を抱かれてしまったのでは腑に落ちない。

「全部俺が好きでやってる事だから。…だから、こういう時位は甘えてくれると嬉しい、です。」

そう言い乍らも高橋さんのマフラーを解くと更に頬は赤みを増しているのが見え、少しだけ表情が和らぐ様な感覚。

「じゃあ…お願いします。」

はにかんだ様な笑顔がどうにも眩しくてそれに只頷くや否やベッドの上に座らせて靴を脱がせる。介抱するだけの事なのに心臓が僅か跳ねるとスカートの裾とか白く波打つシーツとか見たい様な見てはいけない様な感覚がまた鼓動を早める。触れたいな、とほんの少し思ってしまった。そんな事多分君は知らないんだろうけど。ピピッという電子音が僅か鼓膜を擽り我に帰ると体温計を取り出す。

「38.8度。結構あるね。…じゃあ、寝てて良いよ。高橋さん冷却シート平気?…あ、ブレザーシワ寄るから脱いどいてね。」

「…えっ?あ、うん!…何か…何から何まで、有難う。……悠太君、お母さんみたいだね。」

「ほらほら、ふざけて無いで寝てなさい。」

ぺたりと冷却シートを額に貼るとクスクスと微笑った。其れこそ俺が親なら君は子供みたいに、微笑ましく。母親とは何とも妙な例えだけれど。漸く横になった高橋さんに布団を掛けると自然と顔を覗き込む形となる。何と無く彼女を押し倒してしまっている様なそんな錯覚を抱きつつも頬に触れる。そうすると僅かに肩が跳ねると共にきつく閉じられた瞳は少したてば徐々に開かれた。触れたいな、なんてまた。僅かに震える唇を重ねると其処から熱は伝わって。

「…悠太く…、んん。」

深く深く、キスを交わしては口内まで溶ける様に熱が伝わっていく。この感覚が心地良いのと、好きという気持ちと、下ら無い欲望が混ざり合ってくらくらする。背中に回された手が恐る恐る服を掴む頃唇を離すとまた一段と頬に赤みが増した。それを指先で触れても今度はその指先との体温は同化している様で、何時の間にか悴む手のひらも融けていた。

「…ん。お休み。」


「……お休み、なさい。」



(欲望は唇に乗せて。)










2012/03/06 18:27

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