見惚れてんじゃねーよ



どうしてこんな事になったのか。そもそも別に惚れさせるのはあいつじゃなくてもいいはずなのに。
だけど、売られた喧嘩は買うしかない。

私はあいつを振り向かせる為、こそこそと調査を開始した。

あいつはチョココロネが好きだけど、基本的に食べ物ならなんでもいいらしい。
乙女らしく、手作りお菓子を持ってきてみる。


『あーらきっ』

「お?」


振り向き、即座に私の持っているお菓子に気付いた荒木が、目をキラキラ輝かせる。

まだ上げるなんて言ってない。


「それ、俺にくれんだろ?」

『そんな事一言も…』

「サンキュー!」

『あっ!こら…!』


ひょいと手の届かない所まで取り上げられたお菓子。
そしてそれを取り戻すためにジャンプを繰り返す私。


「ほーらほーら」

『くっそ…』


そんな光景を荒木は楽しんでいるようだった。


「俺にくれんじゃねーの?これ」

『なんでそうなるのよ』

「俺を落とす為に作ってきたんだろ?」

『う…』


そうだと言ってしまうのが悔しくて返事に困っていると、目の前にいる荒木はにやにやと笑う。
荒木はお菓子の包みを開け、一つずつ口に運び、そのまま全て食べ切ってしまった。

美味そうに食べる荒木が可愛いなんて思ってない。思ってない。


「んだよ?俺様の食いっぷりに見惚れてんじゃねえよ」

『はあ!?』


自信過剰もいいところである。


「あ、そうだ。食わせてもらったお礼に、明日放課後砂浜に来いよ。いいもの見せてやる」

『え…?』

「じゃあなー」

『えっ、ちょっちょっと』


それだけ言って去っていく荒木。

明日は何かあるのだろうか…。




帰宅後、あまりに荒木が嬉しそうに食べるもんだから、残っていたお菓子を一つつまむ。


『うえっ…味しない…』


荒木はこんなのを食べ切ったの?

突然申し訳ない気持ちが沸き上がってきた。


これは、明日絶対に砂浜に行かないと…。もちろん、謝るために。




自信家な彼のセリフ
(見惚れてんじゃねーよ)






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