「バーカ」
普通ならイラッとくる言葉も、ある特定の条件が揃ったときにのみ心を震わせるものに変化する。
その条件とは、
「名前」
『なーに?』
その一、自分が心を許している、気になる、もしくは好きな相手であること。
「前見えてんの?」
『な、なんとか』
日直として集めさせられたノートを運んでいると、ふと横から掛けられた声。 声の主は、同じクラスの荒木竜一。これでも私の彼氏だ。
「貸せよ、手伝ってやるから」
『ううん、大丈夫だよ!これくらい!』
その二、
『わっ!』
「あっぶね」
自分がドジをすること。
躓いた身体をスッと支えられ、自分の頬がほんのり染まる。
『ご、ごめん…』
「ったく、だから貸せって言ってんだ」
付き合ってんだからちょっとくらいは頼れよ。そうぶつぶつ呟きながら私の手の中にあるノートを全部奪う彼。
『全部は申し訳ないよ!ちょっとは持つって!』
「バーカ、」
その三、嫌味ではなく、少なからず愛のこもった言い方であること。これが一番大事。
「こういうのは男に任せときゃいーんだよ」
そう言って彼はニカッと笑った。
『ありがとう、竜一』
負けじと笑顔を返すと、照れ臭そうにそっぽを向く彼。 彼に言われて嫌な気がしないのは、言葉の裏に不器用な優しさと愛情が込められているから。
こういう時の「バーカ」は、悪くない。
バーカ (むしろ好き)
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