「来いよ」



踏み越えてはいけない一線。
これを越えてしまえば、もう後には戻れない──…

遠くから見ているだけで十分だった。

好きなことに夢中になって汗をかく姿。
いつも笑っていて楽しそうで、みんなの中心にいるあの人。
みんなに慕われているあなたがいる場所は、私にとって遠く離れた別世界のようだった。

“恋”だなんて誰が言い出したのだろう。

もっと知りたい、もっと近くに行きたい、もっと…
心は意に反してどんどん欲張りになっていく。
これが、病。


「好き、かも…」


自覚した時には既にそれは悪化していた。

この病を治すなら、きっと今しかない。
なのに、


「名字?」

『あ、荒木くん…』


あなたは私を呼び止めた。


「こっちこねーの?」

『え、えーと…』

「悩む位なら来ればいーんじゃね?」


そう言ってあなたはいつもの笑顔をくれた。

差し伸べられた手を握れば、もう後には戻れない。
どんどん悪化するだけ。

それでも。


『いいの?』

「おう、来いよ」


ああ、もうだめだ。
私はこの人が好きだ。




来いよ
(引き寄せたのはあなた)






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