「待ってろ」
いずれ来ることは分かっていた、彼と離れる時間。 追い掛ける夢が違えば、それぞれに進む道も異なってくる。
そんなことは分かってた。
『おめでとう!本当に、おめでとう!』
出来るだけ平然を装って、彼に精一杯の笑顔を向ける。 もしかしたら、自分が無理をしていることはずっと一緒にいた彼には伝わっているかもしれない。
それでも私は笑顔を向けた。 だって、これはさよならではないから。
「…おう、サンキュ」
みんなからの祝福も受けた彼。周りの気配りから、今は私たち2人だけの時間になっていた。 彼は私の顔を見て少し切なそうに微笑む。
「なあ、名前…」
『いよいよだね!』
何かを言おうとした彼の言葉を遮って、自分なりの祝福の言葉を述べようとする。
お願い、さよならは言わないで。
『凄いなあ、ほんとにどんどん夢に近付いていってるんだもん』
「名前」
『ほんとに凄いよ竜一は』
「名前」
腕を掴まれて、無理矢理彼の方を向かされる。 見せないようにしていた私の顔は、彼の両手で包み込まれてしまった。
『竜一…』
「寂しいか?」
図星をつかれて声が出ない。 絞り出すようにして、なんとかうんと頷く。 すると腕を引き寄せられ、気付けばすっぽりと彼の腕の中に収まっていた。
「ぜってー迎えに来るから」
『うん…』
「待ってろ」
『うん』
頭上から降り注がれる心地よい声。 私は彼にしがみつくように抱きしめ返した。
「待ってろ」 (留めるための一言)
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