俺は平気だから、気にすんなよ



『わっ雨…!』

「急ぐぞ」


帰り道。天気予報は晴れだったはずなのに、突然の夕立に傘を持って来なかった私と傑は、押していた自転車に跨がり一先ず比較的近くにある傑の家に向かった。


『濡れちゃった…』


家の中に入れてもらい、着替えを用意して貰える事になった私がそう言うと、鞄からスポーツタオルを取り出した傑が、私の頭に被せわしゃわしゃと拭きはじめた。


『わっ、ちょっ…傑っ!』

「ははは!」


タオルを奪おうと抵抗する私を見て傑が笑う。


「それ被っとけ」


そう言って、ぽんぽんと頭を撫でられた。


「着替え渡すから中入って」

『うん』


案内されるがままに傑の部屋に入った私。男子の部屋に入るのはこれが初めてだ。


「これ着替え、妹のだから多分着れると思う」


すっと差し出されたジャージを受け取る。


『ありがとう』

「じゃあ俺、何か温かい飲み物取ってくるから、着替えて待ってて」

『うん』


そう言って傑が出て行ったのを確認してから、着ていた制服を脱ぎ、タオルで身体を拭いた。


『男子の部屋…』


周りを見渡せば、物の少ない棚やら、脱いだままにされたジャージやら、女の子とは違う雰囲気が出ている。


『傑って意外と…』


しっかりしてるのにどこか抜けている。そんな気がした。


『あ、やば、着替え着替え』


ジャージを掴みズボンを履いた所で、ガチャリとドアが開いた。


『えっ!?』

「あ、ごめん…!」


ドアを開けてしまった傑は急いで閉める。下着は着けているものの、上半身裸の姿を見られてしまい、私は動揺を隠せずに固まった。


「ご、ごめん。妹以外の女の子が部屋に入ったの初めてだから…その、いつもの癖で」


いない時と同じように、つい開けてしまったと、ドア越しに言う傑。


「えっと…俺は平気だから、気にするなよ」


傑が平気でも私は平気ではない。

なんとかジャージを着て、ドアを開ける。


『…傑』


顔が熱いから、きっと真っ赤だと思う。
見上げると、そこには私より真っ赤になった傑がいた。


「いや、えっと…その…」


いつも冷静な彼が明らかに動揺している。


「…肌、綺麗だな」


しっかり見ていた。


『変態!』

「って!」


思わずバシンと傑を叩いてしまった。




不器用な彼のセリフ
(俺は平気だから、気にすんなよ)






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