正直に、好きって言えよ
あれから、荒木とは少し気まずくて、お互いに距離を置いている。
だけど、どうしたものか。 ほんの少しぽっかり穴が空いたような、物足りなさを感じるようになった。
『どうしてくれんのよ…』
認めたくはないが、荒木がいなくてつまらないこの感じは正しく…。
私は荒木が好きになってしまったらしい。
あいつが言っていた通りに、私は荒木を選んだのだ。
『悔しい…』
耐え切れずに、あいつがいる教室の前まで来てしまった。
チラリと中を覗く。
『(あ、いた。)』
友人たちと楽しそうに騒いでいる荒木を外から眺めていると、ふと私の視線に気付いたのか荒木がこちらを向いた。
『(やばっ!)』
咄嗟に逃げるようにダッシュして廊下の角を曲がり、その場に隠れる。
『あっぶな…』
「何がだよ」
『ぎゃああ!』
「でかい声出すんじゃねーよ!びっくりすんだろーが!」
驚いたのは私の方である。いきなり後ろに立たないでほしい。
「んで、俺に会いに来たんだろ?」
にやにやと勝ち誇った顔で笑う荒木。ほんっとに悔しい。
『違うもん』
素直になるのが悔しくてここまできても意地を張る私。
「まだ意地張んのかよ。正直に、好きって言えよ」
『なっ…』
全部読まれてる。 こういう時こそクールに反論してやりたいのに、そんな気持ちとは裏腹に顔はどんどんと赤くなる。
「りんごみてぇ」
『う、うるさい…!』
「へへっ」
はにかむように笑った荒木は、私を壁に追い詰めるように迫ってくる。
「言わねーのかよ?」
本当に悔しい。
『す…』
これ以上逃げ場はない。
『好き』
そう言うと、柔らかい物が唇に触れる。
「へへっ、俺も」
目の前で荒木が嬉しそうに笑った。
狡い。
今まで散々悪態をついてきたくせに、その笑顔は狡い。
勝負の結果は私の完敗だった。
『好きだバカ』
自信家な彼のセリフ (正直に、好きって言えよ) fin.
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