母が来るまでの間、私と彼と父の三人はベンチに座って到着を待つ事になった。


「岩城くん、本当に大丈夫か?名前をかばってくれたんじゃ…」

「大丈夫ですよ、少し足を捻ったみたいですけど、たいしたことはないです」

「そうか…後で見せなさい、小さな怪我が大事に繋がる事もある」

「…はい」

「名前を助けてくれてありがとう」


父はそう言って、彼の肩に手を置き「少し離れる」と、その場を去った。


『だいじょうぶ…?』


ようやく震えも治まり、振り絞るようにして声を出す事が出来た私は、彼にそう話し掛ける。
先程から歩く際に、彼がほんのわずかながらにいつもと違う歩き方をしているのを私は見ていた。


「大丈夫だよ、ありがとう、名前ちゃん」


いつものようににっこりと笑う彼。


「名前、ママが来たよ」


しばらくして父が母を連れて戻ってきた。


「名前!大丈夫?」

『うん』

「よかった…」


そう言って母は隣にいた彼を見る。


「あなたが岩城くんね?」

「はい」

「娘を助けてくれてありがとう…」


しばらく彼と話をした母は私の方へと向き直り、帰るように促すかの如く手を差し出した。私も立ち上がり、大人しくその手を繋ぐ。


『…ばいばい』

「名前ちゃん、またね」


彼に手を振って、私は少し蟠りを抱えたまま、母と帰路についた。




この時私がもっと大人だったら、もっと頭がよかったらと、何度も悔しい思いをした。

この出来事が、これから先を歩む私の生き方を決めるきっかけとなる。





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