*飛鳥享



急激な気温の変化と共に、少しずつ木々や山が紅く染まっていく今日この頃。秋になって夕日が山に消える時間が早くなった。


『うわ…もう真っ暗だ』


私には好きな人がいる。

その人とは友達以上恋人未満と人に言われる程にはよく会話する方なんだけど…、実際には私の一方的な片思い。
あの人は今恋だのなんだのと考えてる暇がない。それは私が誰より良く分かっている。
ましてや今は高校サッカー界のみんなの夢である選手権大会の予選の真っ只中。そんな今これ以上の関係を求めるつもりもない。

彼はサッカーに夢中なんだ。


「まだ残ってたのか」


聞き慣れた声に後ろを向くと、この肌寒い季節に似合わずシャツの色が変わってしまう程に汗を流した彼が立っていた。

あなたを見てたんだよ、

なんて言えるはずもなく…。宿題を済ませていたという何とも在り来りな嘘をついた。


『部活終わったの?』

「ああ」

『お疲れ様』

「ありがとう」


彼はお喋りな方じゃない。そんな彼と毎日のように何かしら会話出来ているんだから、周りからすればやっぱり特別な関係に見えるのだろうか。


「………」

『………』


嫌な沈黙。私だってこの人と毎日会話するのは至難の技なんだから…。彼が興味を持ってくれそうなサッカーの話題を、毎日チェックして会話にしていた。
そんな沈黙を破ったのは向こうだった。


「…送っていく」

『え…?』

「オレもこれから帰る予定だったから、ついでに送っていく」

『い、いいの?』

「ああ」

『…ありがとう』


どうしよう、嬉しい。でも困った。今日のサッカーネタはもう尽きている…どうしよう。





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