*荒木竜一



七夕。
それは離れ場慣れになった織り姫と彦星が一年に一度会う事を許された日。
そんな日に、私たちは浴衣を着て夜空を眺めていた。

なんだけど、


『暑い』

「いーじゃねーか今日くらい、七夕だぜ?」

『だからってなんで抱き着くのよ暑いー!』

「いてっ」


なのに、いつでも会えるはずのこいつが、くっついていたいとか言って抱き着いてくる。夏なのに。


「一年に一度の大切な日だろ?抱き着くくらいいいじゃねーか」

『織り姫と彦星にはとっても大切な日だけど、私たちはいつでも会えるでしょ』

「夢ねーのかよー?」


ないわけではないけど、抱き着かれる事が凄く嫌というわけではないけど、この距離の近さが恥ずかしい。

浴衣を着る事でアップにした髪。
そこに竜一の吐息がかかる。


『ねえ、わざと?』

「あ?」

『わざと首元で喋ってない?』

「あ、バレた?」

『なんでそんなことするのよバカ』


少し身体を離そうと腕に力を込めれば、それ以上の力で抱きしめられる。


「んー、まあ…ちょっとくれえその気になってくれっかなって」

『その気って…』


竜一の言葉に顔が熱くなる。合った目を急いで反らした。


「だってさ、浴衣ってすんげー色っぺーんだもんな」

『ほんっとバカ、変態バカ』

「とか言って、ホントは結構その気になったんじゃね?」

『………』


私もバカだ。
こいつにはなんでも見透かされてしまう。


『…バカ』


とっくに逃げる気力なんて残ってないよ。




浴衣
(無意識の誘惑)






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