*島亮介(社会人パロディ)



どうしようもなくつらい時、私はいつもここに来る。


『もうやだ…泣きそう…』


受験生である私は、試験を間近にした今になって、どうしようもなく途方に暮れている。今更足掻いたって仕方ない事は分かっているし、目の前の大きな壁を崩すには持てる力を振り絞って全力でぶつかるしかなかった。

その壁を崩す自信が持てず、机に広げられたノートを何度見直しても、頭が混乱するだけで、涙が出そうになっていた。


「んな泣きそうな顔すんなよ」

『だって…』


スッと伸びてきた亮介先輩の掌が私の頭にぽんと乗せられ、よしよしと撫でられる。

ここは私の大好きな島亮介先輩が一人暮らしをしているアパートの一室。落ち込んだときや、辛いときには、私はいつもここで彼氏である先輩に慰めて貰っていた。


「オレはそんなに勉強とかしたことねーから、何にもアドバイスとかしてやれねーけど…」

『………』

「自分で選んだ道には、誰だって乗り越えなきゃなんねーでかい壁があるもんなんだよ」

『亮介先輩…』


わしゃわしゃと、ぶっきらぼうに頭を撫でるその手と、彼の優しい微笑みに、我慢していた涙が溢れてきた。


「お、おい、泣くなよ」

『先輩が、優しいからっ、悪いんです…』

「…はいはい、わかったから、泣くなって」


そう言って抱きしめながら、背中を摩ってくれる亮介先輩。


「終わるまで待っててやるから、頑張れ」

『…はい』


先輩の優しさと、暖かい腕の中で、私の頭は少しずつ落ち着きを取り戻していった。


「あ、そうそう」

『?』

「ほら、」


突然、棚の引き出しから小さな包みを取り出し、それを私の掌に置く先輩。


『開けてもいいですか?』

「おう」


その包みをゆっくり開けると、中からはスワロフスキーがキラリと光る小さなハートのネックレスが出て来た。


『これ…』

「新しい場所に行った時に、名前に変な虫が寄り付かないように」


先輩は私の手からネックレスを取ると、首の後ろに手を回しそれを着けてくれた。


「オレのっていう印」


首から下がるそれのチェーンを指先でスーッとなぞり、そのままハートにキスを落とされ、私の身体はくすぐったさにぴくりと反応を示す。

それを見て、亮介先輩は悪戯っ子のようにニヤリと笑った。


「絶対受かれよな」


熱を持った頬に手を宛て、私は何度も首を縦に振った。


* * *


『よし、終わり!』


あれから必死になって再び勉強を始めた私は、何とかその日のノルマを達成することが出来た。


『せんぱ…、寝ちゃってる…』


側にいた先輩を見遣ると、スースーと気持ち良さそうに寝息を立てている。

先輩だって、日々サッカーの練習で疲れているに違いないのに…


『優し過ぎます、亮介先輩…』


私はその無防備な寝顔の頬にそっとキスをした。


「…終わったの?」

『わっ…!』


それに気付いて目を覚ました先輩に突然腕を引っ張られ、いつの間にか組み伏されて私は先輩の下敷きになっていた。


『りりり亮介先輩…!』

「ぷっ、顔真っ赤。焦った?」

『当たり前じゃないですか!』


じたばたと暴れて抵抗しようにも、合気道の達人である先輩にしっかり押さえ付けられていて身動きが取れない。


「安心しろよ、今日は何もしねーから。今日は」


ニヤニヤと意味深に笑う先輩。
その先を勝手に想像してしまった私の顔が更に熱を帯びる。


「何想像してんの?」

『し、してません!先輩の馬鹿…!』

「はいはい」


楽しげに笑う先輩を前にして、私は勝てる気がしなかった。

ようやく上から退いてくれた先輩は、眠そうに欠伸をしながらベッドに寝転がり、ちょいちょいとこちらに向かって手招きをしてきた。私は大人しくそれに従うと、先輩の元へと寄っていく。

近くまで来ると腕を引っ張られ、バランスを崩した私もベッドに寝転がる形になり、そのまま抱きしめられた。


「試験いつ?」

『明後日です』

「そか、頑張れよな」

『はい…』

「緊張したときは…ゆっくり…深呼吸して…精神統一、しろよ…」


途切れ途切れにそう言った先輩の顔を見遣ると、再び気持ち良さそうに目を閉じて規則正しい寝息を立てていた。


『…先輩、ありがとうございます。大好きです』


私はそう小声で呟き、そのまま目を閉じた。




それはそれは大きな
(大切な人)



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受験生である友人からのリクエストで、初の島くん夢。
捧げ物です。
一応島くんが社会人でヒロインが大学受験生という設定になっていますが、高校受験でも大学受験でも就職試験でも資格試験でもいけるように細かい所はぼかしたつもりです。
受験頑張れ!





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