帰り道、私たちの間には沈黙が続いていた。
『(気まずい…)』
彼はこの沈黙が気にならないのだろうか。それとも別の、選手権の事でも考えているのだろうか…。 真っ直ぐ前を見据える彼の瞳には未来しか映っていない。その瞳に映りたくて、いつ視線に気付いてくれるかなーなんて、顔をじっと見つめてみた。
「どうした?」
あ、気付いた。
「オレの顔に何かついてるのか?」
『ううん、そんなんじゃないよ』
「?」
きょとんと目を丸くする彼。普段はクールな表情しか見せないけれど、会話してると意外とそうでもなくて、話している人にしか分からない彼の色んな表情が私は好き。
『ホントにサッカー好きだよね、飛鳥くん』
「苗字もかなり詳しい方だろう?身近な女子でこんなに話が出来るのはお前くらいだから、ついサッカーの話ばかりしてしまうんだ」
嬉しかった。彼がサッカーの話をするのに私を選んでくれてることが。彼を好きになってからそうなりたいと思っていた。必死にサッカーについて勉強して良かった。
『飛鳥くんなら、きっと選手権優勝出来るよ。まあ…私なんかが言ってもあんまり頼りにならないけどね』
冗談っぽく軽く笑ってそう伝える。
「いや、そうでもない。苗字の客観的目線は、オレとはまた違う発想があっておもしろい。だからそう言って貰えると素直に嬉しいんだ、ありがとう」
にっこり微笑む彼に心拍数が増す。それは自分で決めた多くは望まないという決意をあっさりと壊してしまいそうだった。
『そんな風に言われると…何か恥ずかしい…』
きっと顔は赤くなっているだろう。私はそんな顔を見られたくなくて、フイッとそっぽを向く。 すると、人の気持ちを知ってか知らずか、頭に重みを感じたと同時、そのままくしゃくしゃと撫でられた。
『!』
思わず振り向くと、彼は優しく笑っていた。
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