*荒木竜一
江ノ高文化祭、数々の活躍で校内でも人気急上昇中のサッカー部は女装メイド喫茶で、私も一客として行ってみたが、マネージャーと一部の部員を除き、ガタイが良いせいでごつくなってしまう人、笑顔を作ろうとして苦笑いになってしまっている人などなど、メイドとは言い難い人たちが多く、それはもうむさ苦しい喫茶だった。
かくいう私の彼氏も例外ではなかった。
私は隣で気持ち良さそうに眠る彼氏を見る。
今は痩せていて綺麗な寝顔をしているが、文化祭のあった時はぷくぷく太っていて、とてもメイドとしてご奉仕してもらいたいとは思えなかった。まあ彼の場合、あの格好はウケ狙いでもあるのかもしれないけれど。
それ以来思っていた事がある。
痩せて綺麗な顔をしてるコイツに、笑い抜きで、真面目に女装させたらどうなるのか、という事だ。
『ねえ、竜一』
「………」
ずっと前から考えていたので、メイク道具やらはバッチリ持ってきている。
『竜一ってば』
身体を揺すって名前を呼ぶ。 しかしぴくりともせず起きようともしない彼。ぐっすり眠っているのを確認して、彼の友人であるマコちゃんに協力要請のメールを送る。
しばらくしてマコちゃんはウキウキと楽しそうにやってきた。
「しっかし苗字も悪戯好きだよなー」
『でもマコちゃんも見たいでしょ?』
「まーな!」
ニヒヒと笑い合いながら竜一の両腕を椅子の背もたれの後ろで縛る。
「!?」
流石に異変に気付いたらしい竜一が目を覚ました。
『あ、起きちゃった?』
「もう少し寝てろよ荒木ー」
「おい!何だよこれ!」
じたばたと暴れる竜一をマコちゃんに押さえてもらう。
『じっとしててねー、りゅ、う、い、ちっ!』
「はあ!?」
頭をマコちゃんに押さえてもらい固定し、顔にメイクを施していく。
『目閉じて』
「やだね」
『閉じてよ』
「嫌だ」
『ねえ、お願ーい。あとちょっとなんだもん…』
「………」
『お願い』
「…後で覚えてろよ」
渋々了承してくれたのか、目を閉じて大人しくしてる竜一。そんな彼がメイクされながらゆっくりと口を開く。
「おいマコ」
「ん?」
「お前は帰れ」
「何でだよー」
「いいから帰れ」
「…はいはい」
マコちゃんは最初は嫌だというように唇を尖らせていたが、竜一の方を見て、フッと笑ってから手を離して部屋を出て行った。
『動かない?』
「動かねーよ」
目を閉じてじっとする竜一につけまつげを付ける。これでメイクは終了だ。
『ゆっくり目開けてみて』
「瞼重っ!」
『まあ慣れないと邪魔だよね、つけまつげ』
目を開けた竜一が、ゆっくりとこちらを見上げる。 その上目使いにドキッとしてしまった。
「顔赤いぞ」
『き、気のせいだよ!』
視線を顔から外し、竜一のトレードマークのような尻尾を解く。 さらさらの髪の毛は癖もなく、真っ直ぐ下に伸びていた。
『すごーい…』
「何がだよ」
『もしかして、女の私より綺麗…?いいなー』
「はっ、この俺様を誰だと思ってんだ」
フンッと偉そうに鼻で笑う竜一は、少しガタイがいいものの、どこから見ても美人の女性だった。
『写メ撮ろう、写メ』
せっかくなので、と嫌がる竜一を無理矢理説得して写真を撮った。
『待ち受けにしよっと』
「おい、やめろ。それより腕解けよ」
『あ、忘れてた』
竜一の腕を解放してやる。すると、待ってましたと言わんばかりに腕を掴まれ、竜一がそれまで座っていた椅子に無理矢理座らされ、腕を縛られた。
『ちょっ…!竜一!』
「俺様がいいようにされたまま、ただで帰ると思ったか」
『えっ…ちょっ…』
「今度は名前がいいようにされる番だぜ?」
そう耳元で囁かれて私は一気に血の気が引いた。
マニアックプレイ (やだ…!やっ…竜一っ!) (これ待ち受けにしといてやるよ)
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