『でも何でわざわざ来てくれたの?』


少し落ち着いた所で、気になっていたことを享に問い掛ける。


「あれだけメールで寂しいだのなんだのと言っていたから、てっきり呼ばれているのかと思ったんだが、違ったか?」

『…合ってます…』


図星だった。気持ちを当てられた事で恥ずかしさが込み上げてきて俯いた。


「正直に来てくれと言ってくれれば、オレはいつでもここに来る」


優しく笑いながらそう言って頭を撫でられる。
それに思わずドキッとしてしまった。


『でも享はサッカーで忙しいし…』


高鳴る心臓に呼応して赤くなる顔を隠すために、ふいっとそっぽを向く。


「確かに毎日のように部活はあるが、今日みたいに死にかけている彼女を放っておくわけにはいかないからな」

『死にかけ…』


彼のその言葉に、少し大袈裟に書いた自分のメール文を思い出し、とても恥ずかしい気持ちになった。


『なんか…ごめん』

「気にしなくていい」


慣れた手つきで私の額からタオルを取り、水に浸しながら、フッと笑う彼。


『慣れてるね』


親が医者で、サッカーを選ばなければきっとそれを継いでいたであろう彼は、看病しているのがとても様になっている。


「サッカー部には不器用な奴が多いからな、練習に没頭し過ぎで、特に夏には倒れるやつが何人か出る」


そんな部員の看病をしている内に気が付いたら慣れていた、と笑いながら言う彼はとても楽しそうだった。

享は部活の話をするときは、いつも楽しそうに笑う。それだけ好きなんだなという事が強く伝わってくる。


「…どうした?拗ねた顔して」

『べべべ別に拗ねてないし!』


サッカーが大好きな彼。そんなサッカーについて楽しそうに話をする彼を見てると、私といるよりも…と、偏屈な考えが脳裏を過ぎる。それは軽い嫉妬心だった。

そんな私を見て、彼が微笑みながら口を開く。


「お前はオレにとって特別だ」

『!』


この人は、誰よりも私の機嫌を取るのが上手いと、つくづくそう思った。





下がらない
(享のせいで熱上がった)
(看病する時間も増えたな)
(何か楽しんでない?)
(そんなつもりはないが…)






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