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鳶が黒蛇を喰った夜-1-
 

空は暗闇に染まっていた。
小さな星明かりと、数個の蝋燭の灯のみが手がかりの中、

私は白い布に沈んでいる。


「なん、で……?」


小さく口から出た言葉はしっかりとせずにただ揺れていた。質問した筈なのに、その言葉を発したのがまるで禁忌とでも言うかのようにただ周りの空気を重くする。

目の前にいる男が、私を寝台に押し倒したのだ。

名をサラディンという若者は、私よりも高い背、身体で私を覆うように上にのしかかっていた。いや、重さは感じないから被さるように私の上にいる、という状態だろうか。
あと少し動けば、すぐにでも触れてしまいそうな距離。感じる吐息が、胸を締め付ける。


「悪ふざけはやめ、てよ。
らしくない。お願い…」


期待、させないで。

言葉にしたかった文字を喉の奥で抑えて、ただ私を見つめる鳶色の瞳に投げかける。
ただ無表情に……。いや、固い表情で私を見下ろす彼は何を考えているのだろう。
ただ何もしない、何も動かない時間がしばらく続いた。


「サラ、ディン……?」


沈黙を破ったのは私の声。
でも、最初に動いたのは彼だった。

夜風が部屋を闇で満たそうとしていた。
今にも消えそうに、蝋の上の火は点滅を繰り返す。チラチラとする光と一緒にサラディンが私の長い髪に指を絡めながら、シーツと私のうなじの間に手を滑り込ませた。
冷たい温度に、体が震えた。


「もし……この場でアナタを抱けば、少しはこの胸の痛みも軽くなるだろうか」


耳元で囁かれたテノールは、私の自由を奪うには充分なほどの熱を孕んで。
白に沈んだ身体は、動くことを許されない。


「俺は、あなたをどうしたいんだろう……」


苦しげに呟かれた言葉は、目の前で砕けた。散り散りになった破片は、すべて私へと吸い込まれていく。
私の心に突き刺さった言葉の硝子の痛みに耐えられなくなって、


「……っ」


私と彼の間の小さな空間を埋めるべく、震える両手を彼の頬へと伸ばす。
そして、ゆっくりとそれを引き寄せた。

触れたのは、冷たい唇。





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