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鳶が黒蛇を喰った夜-2-
 

離れた時に感じた恋慕は偽りではない。
今まで生きてきた中でも、はっきりとわかるその想いは彼にだけ芽生えたものだ。


「いいよ、私、」


あなただけに捧げるものだ。


「サラディンなら、奪っていいよ」

「……っ、どうして、」

「初めてはもうあげられないけど、私はサラディンに貰ってほしいって思った」


残念ながら、純潔は私の中にすでにない。
奪われた時には捧げてもいいと思う人がいなかったから、そこまで執着はせずにいたけれど今は、彼に全てをあたえられないことを悔やむしかなかった。
でも、心だけは真っ直ぐにあなたへと差し出せるから、


「大好きよ、サラディン。あなたに私の全部、あげる。
私はあなたにこれ以上苦しんでほしくない。好きにしてかまわないから」


虐げられることや、嬲られることには耐えることができる。
それどころか、愛おしいと想う彼にされることなら、なんでも私は受け止める事が出来るだろう。

その太陽の光のように輝く髪も、
母を感じる大地の色を含む瞳も、
私に触れることを躊躇った指も、
優しい熱を孕んだ大きな身体も、
私を安堵に包みこむ低音の声も、
冷たい唇も、何もかも、
ガルーシェという女は愛すから。


「少しの間だけでいい、私に、生きる幸福をちょうだい」


涙とともに流れた本音は、かれに届くのか。


「俺は……」


静かに揺れる、その言葉の先が知りたい。


「俺は、あなたを愛している」

「サラディン……」

「けれど、俺はあなたに辛い思いをたくさんさせてしまう。
絶対に、あなたを傷つける。俺を囲む環境が、」

「かまわないの。サラディンがくれる痛みなら、私はそれを大切にできるよ」


するとサラディンは諦めたように笑い、私の身体を抱きしめた。
感じられた重みは私がずっと求めていたの。
それに縋るように、私は彼の広い背に腕を伸ばした。もう二度と離れぬように、




夜の帳がおりる。
灯火が風に消える。
漆黒に流れる川に、金糸が絡む。


満天の星々だけが、二人を見守っていた。





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ガルーシェはずっと一人で生きてきて、それでもって色んな目にあって、あわせて…。
そんな中で王子という立場であるサラディンを見て呆れながらもこう生き方もしてみたいと憧れてたり。

サラディンはサラディンで、ガルーシェの自由に妬ましさを感じたりしながら、彼女の抱える闇を知って近づきたいと思ったり。

違う世界では敵同士な二人だけど、私の中で一番幸せになってほしい二人。



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