-4- 四、勝利は偶然に導かれ 銃声が鳴り響く。飛び交う銃弾の中を、僕達は長い回廊を駆け抜けている。破損する壁や床に足を取られながらも、僕は置いていかれないように必死に彼らの後をついていく。 「サイラス! 大丈夫?」 「なっ、なんとかっ!」 気にかけてくれるのは嬉しいが、この状況で大丈夫かと聞かれて大丈夫じゃないとは誰にも言えないのではと思う。それも、目の前で何人もの相手をなぎ倒している彼らには特に。二人は前から襲ってくるゴロツキや兵をいとも簡単に転がしていきながら、脱出するための扉へと進んでいる。僕は倒されていく敵の体を踏まないよう注意しながら、前にいる二人の戦い方に見入っていた。 シエラザードさんは小型の連射できる拳銃、アルフレードさんは長剣を使っている。二人とも、片腕、片脚同士が繋がっているとは思えないほど身軽に、俊敏に動く。逆に繋がった腕や脚を利用して相手を混乱させたり、大きなアクロバットのような動きをしながら翻弄する。 息がぴったりと合っている二人を見ていては、こんな危機的状況にいるのも忘れてついつい見惚れてしまう。 「よし! これで最後かな? 意外と手応えの無いやつらばっかだったね」 「先に進めれば何も言わない。この部屋の中に隠し扉がある。そこから出よう」 もう誰かが襲ってくる様子もない。鞘に剣を素早く納めながらアルフレードさんが扉を開いた。特に何もないように見える部屋の中に入る彼らの後に続く。暖炉の前で立ち止まると、シエラザードさんが拳銃で暖炉の中心を打ち抜いた。すると…… ゴゴゴゴゴゴゴゴゴッ、ゴオンッ! 大きな音と共に大きな扉が現れる。これがアルフレードさんの言っていた、隠し扉。これで脱出できる!と思ったが、二人は動かない。どうしたのだろうか? 「シエラザードさん? アルフレードさん?」 二人の顔を覗き込む。すると、シエラザードさんは困りきったような表情で、アルフレードさんにいたっては眉間に皺を寄せている。何か問題があったのだろうか? 「……どうかしたんですか?」 思い切って声をかけてみる。だが、返ってきた答えは最悪なものだった。 「扉を出したのはいいが、仕掛けがほどこしてあるようだ。俺達はこの仕掛けのことを報告に受けていない」 「じゃ、じゃあっ!」 「開けられないから外には出れないんだけど。どうする?」 「捕まるか?」 「そんなっ!」 冗談を言っている暇は無いはずだ。今にも追っ手が迫ってきている。どうにかしようと、僕はあたりを見回した。でも、見当たるのは、小さな窓と、大きな花瓶。そして、目の前の隠し扉。どうすればいいのだろう。二人は何も話さずに扉の目の前に立っている。何をしているんだと、叫びたい気持ちになった。何か方法を探せ、と。 でも、それは違うと、僕の中の何かが言う。助けてもらった二人にそれはあんまりではないかと。そんなことを言うのなら、自分が何かを探し出したらどうだ、と・・・。僕は本当に自分勝手だ。他力本願だなんて、男のくせに情けない。何か、恩人の二人の役に立つことはできないかと、僕も扉の目の前にたった。 そして、 「………………あ」 頭の中で何かが弾けた。この絵柄は、どこかで……。 僕は扉の装飾の中心を押す。思ったとおり、それは中にへこんで、その周りを波紋のように十二の小さな円が囲んだ。 「サイラス、何をした?」 「……この仕掛け。昔読んだ本に書いてあったものと似ているんです。たしか、これはこの円の順番をそろえることによって開くんだと書いてありました」 昔から、本が大好きで、何度も何度も同じ本を読んではそれを覚えて楽しんでいた。その繰り返しのおかげか、僕は少しだけ記憶力に自信がある。 上京してきた理由も、本をたくさん読んで、僕自身が作家になりたいという理由があったからだ。上京以来、僕は暇さえあれば国立図書館へ足を運び、歴史書や古文書、神話や物語とあらゆるジャンルの本を読んできた。その読んできた本の一冊に、この扉と同じ挿絵を見たことがある。それはたしか、建築関係の書物だったと覚えている。 僕の覚えている限りでは、この扉は星の巡り方を基本として作られていたはずだ。太陽と共に巡る十三個の星たちの巡る順番で、その家の紋章がどの星に属するかによって決まる。そう記されていた。 「そろえる順番は、それぞれの家によって違います。この屋敷はどこの家のものですか?」 「ゼルトイア自身の屋敷よ」 「じゃあ、ゼルトイア家の家紋は十三星の中だと蠍星に属するから、蠍が中心に来て、上から時計周りに弓矢、山羊、水瓶、魚、羊、牛、双子草、蟹、獅子、麦、天秤、蛇の順に並べれば」 ぶつぶつと呟いたとおりに円を回していけば、ガコンという何かが外れる音がした。もしかして…… 「あっ、開きました!」 「すごいっ! ありがとう、サイラス!」 「……驚いた。礼を言う」 「いえっ! お役にたててよかったです!」 上手くいってよかったと安堵する。僕達はそのままその隠し扉を使い、屋敷の外にある森の奥へと逃げた。僕は、自由を取り戻した。 前へ 次へ |