小説 | ナノ

 

オマケ
 

庭を駆け回る子犬。
それを追いかけ抱き上げた少女の姿は、まるで絵画の中の世界に住む娘のように清廉だった。

優しい日差しの中で戯れる、少女と一匹。

素直に笑う少女を見て、まだ20にもなっていないのだという事を思い出す。


「レーナ」


名を呼べば、素直に駆け寄ってくるのだ。
笑顔で近づいてくる彼女を、どうして愛おしいと思わないでいられようか。

用意していた氷菓を差し出せば、それは嬉しそうに受け取った。
パラソルの影に腰をかけ、幸せそうに笑い頬張る。


「あ、メイサン駄目よ。あなたにはあげない」


アルフレーナのもとによる子犬は彼女の持つそれを強請った。
子犬に冷たいものは与えない方がよいだろう、レーナもそれをわかってか、ガラスの器をメイサンが届かぬように持ち上げた。


「ほら、メイサン邪魔しない」


氷菓から遠ざけるように茶色い体を抱き上げる。日差しの強い今の季節に毛の多い彼を抱くのは少し暑いが、耐えられぬほどではない。

メイサンには氷菓のかわりに氷を入れた革袋を与えてやる。
ひんやりとしたそれが気持ちよいのか、それを大事に抱え込んだ。


「あなたはいいの?」

「なにがだい?」

「このお菓子。もう食べた?」

「僕はいいんだよ、これがあるから」


そういって水の入ったグラスを見せる。
レーナはそれを見て少し考え、自分の手元をみると……


「はい、あーん」


氷菓をスプーンに乗せ僕へと差し出した。
一瞬、彼女が何を意図しているのかわからなかったが、単に僕にも分けてくれるらしい。
素直にそれを食めば、冷たい甘みが広がった。


「ありがとう」

「もっといる?」

「大丈夫、十分だよ」


大好きだよ、
そんな想いをいっぱい込めるように優しく頭を撫でる。


最愛の妻は、幼い頃の面影を残しながら、優しく笑った。



それは繰り返される不変の愛撫




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