小説 | ナノ

 

オマケ
 

 
甘い香りが漂う。
シロップの色が光に反射して、粉砂糖の白が雪のようにその光に舞い降りた。


「これでいいかな?」


最後の仕上げを終え、出来上がったものを見る。
うん、今回も良い出来映えだ。


「レーナも喜んでくれるかな」


最愛の彼女のために作った焼き菓子。甘いそれは紅茶に程よく合うだろう。
用意していたバスケットに焼き菓子を丁寧に入れ、冷やした紅茶の入ったボトルもその中に。


「レーナ!準備が出来たよ!」


バスケットを大事に両手に抱えて居間に出るが、そこに呼んだ名前の女性(ひと)はいなくて。
どこに行ったかな、と周りの部屋を見るけどバスルームにも寝室にもいなかった。


「レーナ?」


もしかして、僕との約束を忘れてどこかへ出かけてしまったのだろうか。
もし、そうだとしたらとてもショックだ。
せっかくお菓子も焼いたのに……

しょんぼりとしながら、近くのソファに沈む。ボフンとクッションが小さく音とともに、玄関のドアがバタンと音をたてて開いた。
そこには、


「アルフレーナ!どこにいってたの?心配したよ」

「ごめんなさい。外から声が聞こえたものだから…」


そういって、腕に抱えていたものを僕に見せた。
そこにいたのはまだ生まれてから二ヶ月もたっていないであろう、栗色の毛並みを持った子犬だった。どこか運命を感じてしまうのは、仕方ないことだろう。


「捨てられていたの、ねぇ、あなた」


――家族にしてもいいでしょう?――


楽しみにしていたお出かけが中止されたとしても、僕は彼女に逆らえないのだ。




それはブラウンシュガーが甘い午後




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