小説 | ナノ

 

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四、アルジェントの夢



「なぜ、私だったの?」


愛しいアイリスが俺へと悲痛な言葉を投げかけた。


「どうして?」


何度も、何度も問われた。


「信じていたのに…。」


涙を流すアイリス。


「どうして?」


幾度となく繰り返される嘆き。


「待って!待ってくれ、アイリス」

「どうして?ねえ、どうして?サラディン」


サラサラと砂になって消えていくアイリスを、何とかして捕まえよう手を伸ばす。だが、それは届かない。届く前に、散ってしまう。
そして、


「殺してやるよ、サラディン」

「お前がアイリスを殺したように、今度は俺がおまえを殺してやる」

「お前の大事なものすぺてを、お前と共に」


散った砂が、あの男へと姿を変えた。











「…さま。…いんさ、ま」


小さな声が俺の名を呼ぷ。一番最初に見えたのは、少女の顔だった。


「おきた、さらでぃん、さま、おきた、ね?」


そして隣にいる少年の袖を引っ張った。少年は少年で俺の頬をぺちぺちと叩く。


「おは、よう、さらでいんさま」


戸惑いながらも挨拶をする少年。笑う二人に拍子抜かれた。まさか、先程まであんなも野生の動物よろしく警戒をしていた二人が俺にむかって笑いかけている。驚かないはずがない。
それに……


「さらでいんさま!」

「名前を……」

「お目覚めになりましたか?」


聞きなれた声が俺の耳へと入ってくる。扉のほうを見ればそこにはいつも俺を起こしているはずのサントリナ。


「魘されているようでしたから、二人についているようにといいました。
なかなかサラ様が起きないので少しだけ言葉を教えたのですが、どうしょう?」


悪戯に笑うサントリナにしてやられたと苫虫を噛み潰す。無言で渡された水を飲み干し、髪をかきあげる。


「残党どもは?」

「軟弱なサラ様が残党に殴られて半日眠っている間にすべて処理いたしましたのでご安心を」


いちいち皮肉を混ぜてくる部下に頬がひきつった。サントリナが怒っている証拠だ。多分、俺の不注意のことについてだろう。
お小言はいやだが、おかげであの夢のことを考え込まなくてすみそうだ。


「悪かったって…それよりこいつらが無事でよかったよ」

「当然ですよ。死なせて困るのはあなたですから、今のあなたが守らなくてどうするんです」

「はいはい」


これ以上のお説教は勘弁と両手をあげて降参の意をとれば、仕方がないですね、とサントリナも食い下がった。さて、


「二人とも」


声をかければ大きな自が俺へと視線を向ける。警戒から信頼へと変わった瞳の色は前よりも綺麗に思えた。


「お前達二人に名前をつけたいと思う」

「「?」」


唐突だと思うがいつまでも二人、おまえ、少年少女ではなにかと面倒で。それに名前という一番の大事なものをまず人は持たなくてはならない。
もらうことが遅すぎた彼らに、俺はまず名前を与えることした。


「今から与えるものはこれからの一生で一番大事なものだ。大切にしろよ」


今日になって三回目、二人の頭を撫でて俺は始まりをつげる。


「シエラザードにアルフレード。これがお前達の名前だ。
今日からは、二人でジェントランと名乗れ」






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