小説 | ナノ

 

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夢に出てくるのはいつも同じ、
愛おしい彼女の微笑みと、嫌いなあいつの笑み、
消えてしまいそうな彼女と、消してしまいたいあいつ、
消えない罪はいつまでも俺にのしかかる



一、拾いモノ


「サラ様。サラ様。起きてください」

聞きなれた声が聞こえる。重い瞼を持ち上げ、まず見えたのはいつもと違う天井。ああ、そういえぱ昨日はベッドではなく近くのソファで寝たような気がする。


「……サントリナ、体が痛い」

「こんな所で寝ているからですよ。それより早く起きてください」


かけていたマントを剥ぎ取られ、否応なく起きる事になった。昨日は遅かったし、正直まだ寝ていたい。だが、次のサントリナの言葉によってそれは出来ないのだと改めて知る。


「あの二人が目を覚ましましたよ」

「あの二人? ……ああ、昨日の、」


ソファの近くに置いておいた靴を履き、立ち上がって伸びをした。あくびを噛み殺して眠気を無理やり引き剥がす。ソファへの名残惜しい想いも捨て、前髪をかきあげボサボサになった髪をまたくしゃくしゃにする。


「……サラ様」

「仕方がないだろう」


癖になってしまったその動作を従者のサントリナはやめろと言うけれど、手は勝手に動いてしまう。サントリナの視線を無視して部屋を出た。

昨日、俺はある拾いものをした。
この世に二つとないような、とても珍しく、そして可愛らしい拾いものだ。


「入るぞ」


拾いものがいる部屋の扉に声をかけ、扉をあければそこはも抜けの空。白いベッドの上にも、机の前にも、アレの姿は見えない。拾いものがいない。

部屋の中へと進み周りを見渡してみるが窓が開いた様子もない。物がいじられている形跡もない。逃げたのか、と思ったが…


「……ベッドの下」

「「!?」」


ベッドの下にひいてある絨毯を思いっさりひっぱってみれば、そこには幼い瓜二つの少女と少年。昨日の二人。俺の拾いものだ。


「そんなところで何をしている。楽しいか?」

「ちがう!」


勢いよく叫んだのは少年のほう。紫色の四つの目が俺を睨みつけてくる。綺麗に光るはずの子供の瞳には恐怖と警戒の意しか見えずにいる。それはそうだろう。俺とこいつらはまだお互いを何も知らない。そして、こいつらにとって俺はただの他人になる。それも今をあわせて二回、それしか顔を合わせていない。


「警戒するな、とは言わない。それより、ほら起き上がれ」


両手を差し出す。だが、二人とも手を掴もうとしない。しばらくは待ってやるが、俺のほうも痺れを切らし右手で少年の左手を、左手で少女の右手を掴んでベッドの上へと放り投げた。


「……粗雑ですよ、サラ様」

「言うことを聞かないんだ。文句はこいつらに言ってくれ」


俺の後ろに控えているサントリナの小言に返答をしながらも、俺は腕を組んで目の前にいる双子を見つめた。昨日は暗闘の中でよく見えなかったが、二人とも青のかかった銀色の髪をしている。少しくすんでいるが、きちんと手入れをずれば綺麗になるだろう。
そんなことを考えていると、


「おまえ、おまえ、だれ?」


少年のほうから声があがる。俺とサントリナを交互に指をさして考えを伝える。少しカタコトのそれとぎこちない動きはまるで今までの少年達の人生を物語っている。ろくに言葉も教えられてこなかったのか。だが、たしかにこのような容姿をしていれば仕方ないのだろう。


「俺はサラディン。サラディン・スコアールドという」

「私はサントリナ・アリアレスと……。サラディン様の従者としてお傍に控えさせていただいております」


淡々と俺が、礼儀正しくサントリナが。それを聞いた少年はまだ不安そうな表情をしたままだ。隣にいる少女も表情は固く、おびえている。


「わからない」

「ん?」

「じぶん、おまえ、なに?」


少年は単語しか話さない。否、話せない。それを理解することは出来るが、俺に何を伝えたいのかがわからない。サントリナも首を傾げている。それを見た少年もどう自分の考えを俺達に伝えたいのか悩んでいるようだ。だが、


「……いたい、する?」


少女が発した、囁きような小さな声。理解した。この少年と少女は俺と彼らの関係を明らかにしたいのだろう。いままで虐げられてきたこの子供達はすでに卑下されることを当たり前だと思っている。どうやら、彼らは俺を新しい支配者だと認識しているのだろう。哀れだ。
俺は少女の頭を撫でてやろうと手を伸ばしたが、すぐに少年が俺の手を弾いた。少女も体をすくませている。勘違いされている。傷つけるな、と少年の瞳は俺達に叫んでいた。


「大丈夫だ安心しろ。俺はお前達を傷つけない」


弾かれた手で少年の頭を撫で、もう片方の手で少女の手を撫でた。驚いたのか二人とも体を固くして目を見開いている。温かな体温。子供の熱にあいつの忘れ形見を思い出す。


「名前は?」


手を離し、二人へと問いかける。少しだけ警戒心をといたのか、先程のような鋭い視線は感じない。首を横に振った二人。


「…そうか、」






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