小説 | ナノ

 

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W、Ccookie&Biscuit



気づいた時には、なんだか古い建物の中にいた。周りには数人の男と数本のレイピア。儀式用や決闘用に使われるほどのようなものではない粗悪品を片手に立つ男達だ。感じる空気の重みから、目を覚ましたことを気づかれてはいけないと思い、瞼を閉じる。
その瞬間、大きな破壊音が部屋中に響いた。この音は、石や木が割れる音。そして、


「こんにちは、約束どおり来てあげたんだけどさ……」


聞きなれた声。部屋に響く低音。ガルーシャの声だ。だけど、その声は何かいつも違う。


「俺よびだしたってことの意昧、」


いつもより低い声、そして感じる鋭い雰囲気に背筋が凍る。彼は……


「わからせてやるよ」


怒っているんだ。
悲鳴の音と同時に目を開ければ、彼の瞳の紅と、赤が光っていた。





すべてが終わったころにはあたり一面が赤一色に染まり、彼の長い三つ編みや灰色のマントからもそれが滴り落ちている。


「むかえにきたよ、アイリス」


何事もなかったかのように笑うガルーシャは、私へと近づき血塗れた剣で私の腕をに巻きついていた縄を切った。遠目ではわからなかったけど、彼のわき腹からは大量の血が流れ出している。怪我を負ったみたいで、私は咄瑳に止血をしようとしたが、


「大丈夫だよ、すぐ治るからね」


伸ばした手を掴まれそれを阻まれる。見る限り傷は浅くない、そう簡単に治るわけがない。


「嘘、つかないで」

「嘘じゃないんだけどなあ……まあ、痛いけど」


動揺し震える声でそれでも言い返せば、また笑う。そして、急に何かを思い出したかのように両手をぽんっと叩いた。


「そういえぱ、この前話してた俺の家族のこと思い出した!」

「え……?」


何故、今?
そう思った次に聞いた彼の言葉は、信じられないものだった。


「たしか二、三百年くらい前だったからうろ覚えなんだけど、親父とおふくろと、あと随分下に弟と妹がいたんだよ、俺」


二百年前、という果てない過去を表す言葉。


「でも俺あと数百年は死ねないからさ、覚えててもあんまり役に立たないんだよね」


数百年後というこれからの長い未来を表す言葉。


「だからさ、俺暇でしかたないんだよね。
あと自分がどんな悪いことをどんだけしたのかも忘れちゃったからさ」


だからもういいかなって思って、ね。
彼はその言葉を発すると共に手に持っていた剣を水溜りに投げた。そして座り込んでいる私を見下ろして、


「こんな俺なんだけどこれからどうする?このまま俺と来るか、ここに残るか?それとも逃げる?ああ、俺に殺されるって選択肢もあるけどどうする?」


今まで見たことのない、とびきりの笑顔で私へとたずねた彼。多分差し出された手を取る以外の選択肢すべては私の死を意味するものだろう。

生きるか?それとも死ぬか?
(trick? or treat?)

死ぬことはそこまで怖くはない。だけど、


私は彼の手を取った。




-End-
→次ページにて振り返りとオマケ小話



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