-3- V、Marshmallow ガルーシャは知れば知るほどよくわからない男で、でも一つだけわかったのはそれなりの優しさはある、ということだった。 世界中を旅しているらしく、歩いている間はずっと今まであったことを聞かせてくれていた。北の氷の大地、南の燃える町、西にある風の荒野や東の日が沈まない国。色々な話を聞かせてくれる。が、その話も急に始まり急に終わったりの気まぐれ。自分が暇で、ただ話しているだけなのか?それとも私を退屈させないためなのか?あまり考えていることがよく掴めない人だった。 そんなこんなで彼と出会ってから一週間たった。そして今は、 「このアシュタルト国の人って皆金髪青目でさ、初めて来たときびっくりしたんだ。 海の向こうの国じゃあ緑とか青とかさ、色んな髪とかしている人がいたんだけどこんなにも揃っている国なんて俺みたことなくてさあ」 ガルーシャの揺れる三つ編みをじっと見つめながら彼の言葉を聞く。人で賑わう道をただひたすら進みながらの会話。色々な音が聞こえるこんなところでも、披の言葉は不思議と私の耳へと届く。 「で、一つ気になったんだけどアイリスって異国の血でも混じってんの?」 「……知らない。物心ついた時からあそこにいたから」 「そうなんだ、じゃあ仕方ない。親がいないとなるとねー」 ヘラヘラと笑うガルーシャの反応に少し驚いた。今までこの話をした人たちの反応はほとんど一緒。同情や哀れみの視線を向けるか、何も聞かなかったことにするかのどっちかだったから。 「普通、このこと話すとみんな可哀想とかいうんだけど、」 「ん? 言って欲しい?」 「ううん、別に。どちらかというと嫌」 「だと思った。所詮自分の知らない相手のこと何度も言われんの飽きるからなー。覚えてないもんは覚えてないだろうし」 無神経、とでも言うべき発言だけれど自然と悪い気はしない。実際に親や今の境遇のことを言われるのはもう飽きていたし、どうでもよかったから。同じような考えを持つ人がいるんだと、少しだけ嬉しくなった。ガルーシャは何に関しても遠慮をしないようだから、多分今言っていた言葉もたださりげなくだったのだろう。彼の本心だ。 「ガルーシャは親とか、兄弟とかいないの?」 「俺?」 少し気分がよくなって、自分から話題を振ってみた。 「覚えてないなあ。けっこう昔のことだから……」 「覚えてないって、まだ貴方若いんでしょ?」 「いや、これでも俺おじいちゃんでさー」 思い出そうとぶつぶつと咳いているのが聞こえるあたり、覚えていないのは本当らしい。まあ、彼が嘘をつくだなんて今日までの一週間を振り返ってみるとありえないようにも思える。 「まあ、思い出したら話してあげるよ」 「……期待しないで待ってるわ」 「ひどいなあー」 ケラケラと笑うガルーシャ。よくわからない彼だけど、嫌いではないんだと思う。 本心が見えるようで見えない彼の傍にいるのが、楽しくなってきた。だけど、本当の彼を私はまだ知っていなかった。 *** 長い間この国にいた俺。 旅をする。というか、ただフラフラしているのが好きなだけなんだけど、たまーに俺は悪いこととか、変にいい子ぷっちゃったりするわけだ。退屈を紛らわすために。 そうすると自然と俺を良く思わない連中はできてしまうわけで、特にこの国だと俺の黒髪は珍しいからすぐに目をつけられる。今までだったらずっと一人でいたから苦労することはなかったんだけど、今回はそうもいかなかった。 アイリスがさらわれたらしい。 いつもの通りただフラフラ〜っとしながら歩いていたら、後ろにいるはずのアイリスは消えていて、迷子になったのかと思ってまわりを探している途中にある小さな少年に手紙を渡された。そこに書かれていたのが、 【娘は預かった。返して欲しければ日没に時計台の地下に来い】 と、いうなんとまあベタな内容。 別にアイリス自身がどうなろうとも気にならないし、俺を呼び出している連中にも興味はない。俺は行かなくても全然いいんだけど、 だけど、さ 自分の玩具を黙って奪われて何もしない子供はいない。もちろん俺もその子供と同じ。自分のものとられてそのままだなんてするわけないし、それほど優しくもない。 アイリスは俺が買ったから俺のもの。 俺の遊び道具。 それがいいように他人に使われるという事案を俺は許さないから、潰しに行こう。後悔させるんだ。 俺のモノに手を出したらどうなるのかを、恩い知らせてやる。 前へ 次へ |