-4- 四、はじまりの終わり 「サイラスっ! サイラスーっ! どこにいるの? サイラスっ!」 「サイラスっ! どこにいるっ? サイラスっ!」 聞きなれた声が聞こえる。シエラとアルが、僕の名前を呼ぶ声だ。優しいソプラノと、温かいテノールの声が頭に響く。 行かないと。行かなくては。 守らなくてはいけないんだ。あの、二人を…… 「アルっ! 早くこっちに来て!」 「見つけたかっ、て……おいっ! 大丈夫かっ!」 薄れた意識の中、繰り返される過去を嬉しく思いながらも、拭いきれない不安の中意識は沈んだ。 *** 目が覚めて、一番最初に見えたのは見慣れた木の天井だった。ぼやける視界の中確認出来たのがまずそれで、その後の光景があまりにも平然と普通だったから僕はあの襲撃が本当に夢だったのではないかと思った。 だけど、微かににおう血の臭いがそれを打ち壊す。悲しくなりながらも、とりあえず起き上がろうとした。が、 「あ……目が覚めたんですね。大丈夫ですか?」 シエラの声が、酷く小さく聞こえた。そして、直に触れる布の感触。勢いよくおきれば、そこには人間の両手。毛で覆われた足ではなくなっていた。その手で顔や腕を触るが・・・獣ではなく、ヒト。人間に戻っていた。 「あの、お加減はいかかですか?森で倒れていたのを見つけてここまで運んだんですが……。傷も少し酷い状態だったので勝手に手当てしました」 親切に、丁寧に話すシエラが小さく見えた。そして、部屋に入ってきたアルも同じ。何が起こったのかはわからない。でも、傷の痛みで、どんどん思考が鮮明になってくる。 「何があったかは聞かない。だが、その傷が完治するまではここにいることをすすめる」 アルの冷静な声に、シエラが頷いた。偶然ではない、この出来事。もしかしたら、何かが僕にこの道を歩むことを求めているのかもしれない。ならば、 「助けていただいて、ありがうございます。僕は、サイラス。サイラス・レーダ、と言います」 その道を歩いてみよう。再び、あの二人に会えると信じて。 -End- →次ページにて振り返りとオマケ小話 前へ 次へ |