-2- 二、遠い夢の中で偽りを見つける 気づいた時には静かな泉のほとりにいた。ぼんやりとした思考の中、霧だった世界の中を横たわっていた。起き上がってみようと、地面に手をついてみるがあまり視界の広さは変わらな い。どういうことだろうか……。 「……!」 一瞬の驚きは音にもならず、言葉は出ない。否、出るはずがないのかもしれない。だって、今の僕の姿は・・・。 ―― 獣……だ。 ―― すぐ傍の泉の水面に映った己の姿は人ではなかった。体全体に栗色の毛が生え、そして少し出っ張った鼻に尖った爪。水面に映るのは、一匹の犬らしきもの。未発達の体から見るには区別はつかないが、もしかしたら狼の子かもしれない。でも、そんなのどちらでもいい。問題は、何故このような姿になってしまったのかだった。 とりあえず立ち上がり、一歩前に進もうとしたが瞬間、後ろ足に鋭い痛みが走りそのまま倒れてしまう。いつの間にか怪我をしていたみたいで、体を支えることが出来なかった。どうしようかと途方にくれていれば…… サクッ、サクッ 草を踏みしめる音が聞こえる。どんどんこちらに近づいて来ているようだ。顔を上げ、何が迫ってくるのかを確認しようとしたが、それも深い霧のせいで叶わずそのまま。もし大きな獣だったらどうしよう。このまま食べられて終わりかな……。そんなことを考えて、目を瞑った。が、耳に入ってきた音は酷く優しいものだった。 「アル! 早くこっち来て!」 「ちょっと待って! ……あ」 「怪我してるよ。ねぇ、つれて帰ろう?爺様も婆様も怒らないよ」 幼い二つの音に目を開ければ、そこには幼い子供が二人。ぼやけた視界の中で見つけた二つの影は、嘘かと疑ってしまうほどあの二人に似ていた。なんとか力を振り縛って、名前を呼ぼうとしたが… 「……ワゥ……」 僕の口から出たのは、情けないほどか細い獣の鳴き声だけだった。 *** それからというもの、子供二人に連れられたどり着いたのは一つの小屋だった。そこで僕は老夫婦に傷の手当をされ、そのままそこで飼われることになった。名前は……幸か不幸か、「サイラス」。何故その名になったのかはわからないが、とりあえず路頭に迷いのたれ死ぬことはなさそうだ。 ただ、一つだけ気になったのは、あの子供二人がシエラさんとアルさんにそっくりで、名前さえも同じだということ。 そしてわかったのは、その二人はあの二人じゃなくて、あの二人はもういないということだった。 前へ 次へ |