小説 | ナノ

 

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二、墜とされたモノを拾う


「アル! アル! 見て見て! レーダの花がいっぱい咲いてる!」


小屋の横の森を抜け、二人がたどり着いたのは大きな平野だった。一面に白いや黄色、桃色の花が咲き誇っている。レーダとはその花の愛称である。

シエラはその光景を見た途端走り出し、その花々の中に座り込んだ。手を繋いでいたアルも自然にその近くへと座ることになる。まだ寝ぼけているアルはぼぅっとしているが、シエラは近くの花を摘み、それを一つ一つ編んでいく。そして、


「はい! 見て、出来たよアル! 花の冠!」

「ん?……すごいな、」


差し出されたそれを受け取り、じっと冠を見つめるアルをシエラはニコニコと笑いながら見つめている。そんなシエラを見てアルはその手にあった冠をシエラの頭にのせた。


「わぁ、ありがとうアル!」

「うん、似合ってるよ、シエラ」


本当に嬉しそうに笑うシエラを見てアルも笑う。すると、シエラは笑うアルを見てもう一度花を摘みだした。そしてあっという間に作ったもう一つの花冠をアルの頭の上にのせる。


「え……?」

「お揃いだよ。私とアルのお揃いの冠」


二人でお揃い。その言葉を聞いてアルは少し恥ずかしくなった。小さな歯痒いさと嬉しさが湧き、どうしたらよいのかわからなくなる。
黙り込んでしまったアルを心配して、シエラもアルの顔を覗き込む。


「お揃い、やだった?」

「……違う、嬉しい。ありがとう」


アルが笑うのを見て、シエラにも笑顔が戻った。シエラが嬉しければアルも嬉しい。アルが嬉しければシエラも嬉しい。二人はそんな双子。



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二人が花々の中で戯れていると、いつの間にか近くの泉の向こうに霧がかかっていた。


「……シエラ、霧が、」

「あ、本当だ」


シエラとアルの住む小屋の近くにもこの大きな泉が見える。青く透き通る泉を老夫婦はネージェの泉、と呼ぶ。ネージェとはこのアシュタルト王国の言葉で霧の神を表す。

言葉の通り、この泉はよく霧がかかる。そしてこの泉に霧がかかるのは何かしらの生き物が泉の近くに侵入した場合のみに限られるのだ。その泉に霧がかかるということは……。


「ねえ、アル。行ってみようよ」

「だめだよ、シエラ。爺様に霧がかかったらすぐ帰るよう言われてる」

「やだ、行く!」

「だめだよ」

「…………いいもん。アルが来ないなら一人で行くもん」


そういってシエラは立ち上がり、霧がかかったほうへと向かおうとした。が、


「シエラ! わかったよ、僕も行く」


アルに手を握られそう言われた途端、先ほどまでしかめ面だったシエラの表情は笑顔になった。


「うん、行こう!」



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霧の中を二人、手を繋いで歩く。アルは少しだけシエラの前を進み、シエラは少し後ろを来にしながらも前に進んだ。サクサクと湿った草を踏んでいけば、目の前には大きなサイラスの木が立っていた。

サイラスの木、とは三百年前のこのアシュタルト王国で有名だった義賊の一人、サイラスにちなんでつけられた木である。その葉は薬になり、実は甘く、枝は頑丈。根には毒があり、その毒もある方法で精製すれば万能の解毒剤になる。根を多く切りすぎると葉まで毒が渡り、一年は実をつけないという賢さから、賢人サイラスの名前ご使われている。

シエラとアルもよく遊びにくるサイラスの木全体に霧がかかっていて、それに近づく。そこでシエラが何かに気づいたのか、有るの手を離し、木の根本へと駆け寄った。そして、


「アル! 早くこっち来て!」

「ちょっと待って! ……あ」


アルも急いでその木の根元へと走っていく。そこには……
足に傷を追った狼の子供が倒れていた。栗色の毛はところどころ汚れ、後ろ足には血の色がが滲んでいる。


「怪我してるよ。ねぇ、つれて帰ろう? 爺様も婆様も怒らないよ」


シエラの言葉にアルは静かに頷き、その小さな栗色の体を抱き上げた。ワウと小さく鳴いたその狼の子を優しく撫で、二人は小屋に戻った。




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