Gift | ナノ

□夏生様


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休日のもう日が落ちはじめた時間帯。
帰路を歩いていると「じゃあまた来るから」と、聞き違えるはずもない声が聞こえて神童は足を止めた。
辺りを見渡すと、前方の一軒家の門をキィと音を立てて出て来た見間違うはずもない先程の声の主に心臓がどきんと跳ねた。
「音無、先生」
神童がその名前を呼ぶと、一軒家を後にしようとしていた春奈は神童を振り返り柔らかい笑みを浮かべた。
「神童くん」
春奈は小走りで神童に駆け寄り「何かの帰り?」と小首を傾げる。
休日に春奈に会えた突然の事にどくどく鳴る心臓を宥めながら神童は持っていた鞄を示す。
「あ、霧野と勉強会です。もうすぐ中間ですから…」
「ふふ、真面目ね。いい事だけど…あ、そうだ」
口に手を当ててくすりと笑う春奈は何かを思い付いた様に声を上げる。
「神童くんのお家ってこの先のお屋敷よね?私方角同じなの。一緒に歩いていいかしら?」
その春奈の申し出に神童は断る理由なんてなくて、むしろガッツポーズでも決めたかった衝動を抑えて「はい、勿論です」と少し上擦った声で答えた。

「先生はさっきの家に用事だったんですか?」
「あ、あそこ実家なの。今一人暮らしなのよ、私」
「え、そうだったんですか」
知らなかった、と神童は春奈に目を向ける。
「就職を機に自立しようと思って一人暮らし始めたんだけど…でも何かあるとすぐ母に頼っちゃって…」
出来ると思っててもいざとなるとなかなか難しいわね、と春奈は苦笑する。
初めて知る春奈の事。
別に隠しているわけではないのだろう。だが、生徒の中でそう言う噂も聞いた事がないのだから多分まだ誰かに話してもいないのかもしれない。
その事が、誰も知らない自分だけの秘密に思えて神童の胸は高鳴る。

「それにしても、私服だとやっぱり印象変わるなあ。不思議な感じ」
神童をまじまじと見つめてそう笑う春奈に、神童はまた少し上擦った声で「俺もです」と答えた。
いつもはシンプルなハーフパンツスーツ姿な春奈は、今日はTシャツにカーディガンを羽織り、デニムのショートパンツにブーツといったスタイルで…、こう言っては失礼なのかも知れないが、普段から実年齢より幼く見える春奈は今日は更に幼く見えた。
高校生でも十分通ってしまいそうだ、と神童は思う。
それにいつものパンプスより低いヒールブーツの春奈と神童の身長差も、今日は少し縮まって…何だか全ての距離が近くに感じて神童の心臓はどくどくと脈を打つ。
こうして街を歩いていたら、恋人に見えたりするんだろうか…手なんか繋いだりして…。そんな事を考えながら隣を歩く春奈をちらりと見上げる。
すると、丁度神童に視線を向けた春奈と不意に目が合い、ふにゃりと微笑む春奈に神童は身体の内側から顔が一気に熱くなるのを感じて視線を下に下げた。
そこでふと横目についた一軒家の窓ガラスに映る自分と春奈の姿を見て神童は少し虚しさを覚えた。
「…まだ、か」
そう足を止めて呟いた神童に春奈は「どうしたの?」ときょとんとする。
「あ、いえ…何でもないです」
神童はぐっと息を飲み込み、そう言ってまた春奈の隣を歩き出す。

まだ…今の自分では“姉弟”がいいところ。でもいつか、隣を歩いていて“恋人同士”に見えるような男になろう。
そう思いながら。




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遅くなって申し訳ありませんでしたああ!
キリ番4800で、拓春で絵文どちらでもとの事でしたので、文にさせて頂きました。
七夕文できゅんとして頂けたとおっしゃって頂けたので、今回も拓→春で緩めな感じにしてみました…
訂正、書き直し、絵のがいいなどありましたら遠慮なく申し付けて下さい。

リクエストありがとうございました!
夏生様のみお持ち帰りフリーダムです。

2011.10.19

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