あとでお庭でお茶しましょうねと約束をしたのだが、約束をした当人がなかなか現れずに劉輝は一人庭で佇んでいた
「………余は、ふられたのか?」
結局いくら待っても待ち人は来てくれず、仕方なく庭を散策しようと歩き出した。朗らかな日和でなんだか微睡みたい気分になってきた
「名前はどこにいったのだ。余を残して…まさか実家に戻ったのか!?まさかまさか、狸爺の所にいて余との約束を忘れたとか!?それは狸爺が悪い!名前!今いくから約束通りお茶をしよう!!」
考えがまとまり勇んで廊下を渡る。しかし目的の室まで辿り着く前に目的の狸爺に出会ってしまった
「霄太師!名前は余と先約があるのだ。独り占めはよくないぞ!」
「何を言うとりますかな。名前殿とは昼前から会っとらん故、行方は知りませんぞ。主上こそ独り占めはよくありませんなぁ」
「うううるさい!今日は名前から誘ってくれたのだ。それに余は独り占めなど………して、ない……はず」
思い返せば独り占めだらけで霄太師の顔から視線を外しカニ歩きでその場を離れた。予期せぬいちゃもんをつけられた霄太師はまったく、と溜め息をついて若いのぅと笑った
***
「おや主上、どこへ行かれるんですか」
肩を落としとぼとぼと廊下を渡る劉輝を見つけ楸瑛が声を掛けた。ぐるりと振り向いた王の顔に笑いがこみ上げてきた
「なんて酷い顔をしてるんですか。笑いのネタにされますよ」
「そんなに酷いか?」
「ええ。この落ち込み具合からして、名前殿絡みじゃないですか」
まさしくビンゴ。
「…………ふられたのだー」
劉輝の話を聞いて黙る楸瑛。さっきからずっと『ふられた』を連呼し泣き崩れている劉輝をチラリと見た楸瑛はクスリと笑みをこぼした
なるほど。
昼前から準備をしていたと考えれば、今日のお茶を楽しみにしていたのは名前も同じだと思った。もしかしたらお茶菓子とか買いに行ったのかもしれませんね、と教えれば少し気持ちが浮上した劉輝が探しに行くと言い出した
「女人は自分で準備をはじめたら、その準備も楽しみの一つにしてしまえるんですよ。全部自分で用意して、相手をおもてなしする。それで相手が喜んでくれたなら。まあ一種の自己満みたいなもんでしょ。名前殿も自分で準備するのが楽しいみたいだしね」
劉輝にウインクする。なんだか『パチン☆』と☆が飛んだ気がして思わず避けてしまった
「……避けるなんて酷いですね」
「………それを男にするなよ」
とりあえず、街へ下りるのは諦め城内にいないか探そうと思った。
楸瑛と別れまずは各室をブラリ訪ね歩いた。次に途中で中断した庭をブラリがてら探し歩いた
「いない、か…」
とぼとぼ林の中を歩き、ふと思い出した場所へ急いで向かう
「あの花畑!」
2人で散策した時に見つけた野生の草花が生い茂る場所に
「名前っ!?」
息を切らして生い茂る草を掻き分け一面に広がる花畑に出た。見渡せば季節はずれの淡い色の花々が咲き誇っているではないか、バサバサと花の海を探してみると
「っいた……いた!」
花の海に埋もれるようにして寝息をたてる名前がいた。花々に囲まれ守られるように眠る姿はまるで仙女のようで幻想的な光景を創り出していた。思わず息を飲むくらいに
「なんだ、寝てしまっていたのか……」
静かに隣に座り劉輝も花々に埋もれる。気持ちよさそうに眠る名前の頬を優しく撫でれば、くすぐったいようで小さく身じろいだ
「ふられたわけではないのだな。よかった」
眠る名前の手元にはきちんと茶器が準備されていた。お昼をこの場所でとったあと、あまりの心地良い日和にうとうとしてしまったのだと思った。この小さいけれども幸せな時間を守るように、劉輝も隣に寝転び同じ陽を浴びて、いつしか寝息をたてていた
(拍手ログ)
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