short | ナノ


彩雲国の冬を快適に過ごすため、秀麗ちゃんと2人で毛糸の防寒具を作ろうと考えた。編み物も出来たりする男ってどーなの……町の手芸屋さんに毛糸を買いに行こうかと言うときに秀麗ちゃんが「じゃあ姉様の格好しましょうか!」なんて言ってきた。聞き違いかと思って耳をほじってもう一回聞いてみても答えは同じだった。その笑顔が眩しいぜ。


「……じゃすとふぃーっと。小さくもなく大きくもなくたいへん着心地バッチリでゴザイマス秀麗ちゃん」

「やった完璧ね!名前様のために縫ってたんだもの」

にこーと笑う秀麗ちゃんが可愛くて思わず頭をなでなでした。えへへと笑う秀麗ちゃんも可愛くて思わずギューッて抱きついた。秀麗ちゃんもギューッてしてくれて俺はそこで気付いた。俺男として認識されてなくない?まあいいんだけどね。


「女の人だと結構まけてくれたりするのよ。名前様と行ったら絶対安くしてもらえるわ!名前様美人だもの」

「えーそれは秀麗ちゃんが可愛いからだよ。ねえ邵可様」

「2人ともすっごく可愛いよ。姉妹みたいだね」

「こうなったら店という店で値切りまくってやるんだから!行くわよ姉様!!」
「う、うん」


邵可様が見送る中、秀麗ちゃんと俺(女装中)は出かけていった。目的はあくまで毛糸だよ秀麗ちゃんー!



***



屋台で必ず試食を貰う。ちょーだいとも言ってないのに差し出されたソレを断るという選択肢はなく、美味しくいただきました。うまうま。まだ昼前なんだが手芸屋にたどり着くまでにお腹いっぱいになりそうだぜ……

「やっぱり名前様が一緒だと違うわ」

「いやいやいつもの秀麗ちゃんの値切りっぷりに惚れたんだってば」

「お買い得を見る限りじゃ今日の夕餉は鶏鍋ね!帰りに買っていきましょ!名前様もどう?」

「食べる!!やった!」


端から見れば今日の夕餉の話で盛り上がってるなんて周りは気にしない程仲むつまじい姉妹に見え和みタイムを満喫していたという。
そんな事になっていたとは知らない2人は目的地の手芸屋で数種類の色を選ぶ。結構大量になってしまい2人でうんうん悩んだ。どうしよう。どれも外せないんだよなー。秀麗がいくつか棚に戻そうとして名前がそれを止めた。何のために女装したと思ってる!このためだろ!俺に任せな!籐カゴを持って心底困った表情を浮かべてチラリと店主を見た。女の秀麗から見てもドキリとする女らしい仕草は男の店主では一発ノックアウトだ。当たり前だレイヤーなめんなよ。

「どどどうしましたか!?」

「素敵な色ばかりで夢中で選んでいたら、持ち合わせじゃ足りなくなってしまって…どれをやめたらいいのか妹と悩んでおりました」


よよよと泣くふりまでサービスだ。秀麗ちゃんも雰囲気に乗ってくれてうるうると瞳を潤ませた。やだこの子女優だわ。

「どどどれも似合っているよ!やめるなんて勿体無い!」

「でも持ち合わせが……」

「これ全部の半額でいい!いいよ!」

「おじさん本当?本当の本当?」

秀麗がうるうると店主を見つめる。ああ可愛いな秀麗ちゃんとか別の事を考えそうになった律だが店主の「本当だよ!」の言葉に現実に戻ってきた。袖口から少ししか出さない指先で店主の手をソッと触りニコリと笑んでトドメをさした。

「半額…じゃなくて八割引でいい!!いいよ!!」

「ありがとうございますー」


店主をメロメロにした名前は半額以下の安さを叩き出し秀麗に親指を立てたら秀麗も親指を立ててみせた。犯罪じゃない!立派な値切り戦法だ!お会計を済ませホクホクと笑う秀麗が可愛くて思わず頬が緩んでしまう。よしこの調子で夕餉の食材もゲットだぜ、と言ってる間に値切りまくる秀麗の声が聞こえた。姉様は笑顔!と言われ始終ニコニコしていた名前は表情筋のマッサージを習得しようと誓ったとかなんとか。

屋敷に帰る頃には両手いっぱいの食材と日用品を抱いていた。門前には静蘭が待っていて、両手いっぱいの荷物に苦笑を零した。

「おかえりなさいませお嬢様、名前様」

「ただいま静蘭!」

「…その、様ってやめてくんない?慣れなくてくすぐったい」

「とんでもない!名前様は名前様です」

「うぉおおお―――っわざとだろ!静蘭!」

力の限り腕をさする名前とその腕を力の限り止めようとしている静蘭を見て秀麗は楽しそうに笑う。名前が本当の姉様になってくれたらみんな幸せだろうなと思った。一応確認するが、名前は男である。
門前で繰り広げられる恋人のような夫婦のような痴話喧嘩を見ながら秀麗は屋敷に入ると2人も慌てて秀麗の後ろをついていった。邵可にただいまの挨拶をしてから台所と保存室に食材を運んでからゆっくりと毛糸と向き合った。編みやすいように一度ほぐして巻き直しながらどっちが何を編むか確認する。

「秀麗ちゃんが手袋と腹巻き、俺がマフラー…襟巻きだよね。頑張ろうな!」

「頑張りましょう!雪が降る前に出来たらいいわよね」

「できるできる。秀麗ちゃんと俺が頑張れば出来る」

「うん!」

名前が「出来る」と言えば無理な事も出来てしまえるから不思議であったが、今は心強いお守りになっている。大丈夫、できる。
普段着に着替えるのも忘れて編み物に没頭する名前と娘の姿に邵可は静蘭がいれたお茶をすすりながら笑みを零した。

「やっぱり家の中に女の子がいると華やかだねえ」

「そうですね。旦那様」

「ところで、まふらあって何だろう」

「異国語は難しいので私もわかりません」

「でもあったかい物なんだろうねえ。楽しみだね静蘭」

「はい」

まふらあが何かわからないけど編み物をする2人が可愛いので出来てからのお楽しみにする事にした。
そんなこんなで日数はかかったが人数分の防寒具が出来上がった。邵可には紅色の手袋とマフラーと腹巻きを、静蘭には薄紫色のセット、楸瑛には藍色、絳攸には李色、劉輝には紫色を渡した。名前が上がらなかった人は名前が個人的に後であげるつもりなので今回は秀麗に合わせたのだ。邵可に言われて紅色のセットをもう一つ作ったがどこにやるんだろうねと首をひねった秀麗だった。

「よかったね。みんな喜んでたよ」

「名前様が手伝ってくれたから叶ったの!ありがとうございます!」

「俺はいいんだよ。秀麗ちゃん、頑張ったね」

ふわりと秀麗の首に桜色のマフラーを巻いてあげた。両端に紅色の小さめボンボンを2つつけて可愛くてしてみた。ニコリと笑って同じ毛糸で編んだ手袋と部屋で履いてねとルームソックスをあげた。誰よりも一番頑張る女の子が風邪をひいちゃダメだろ。名前からの気遣いだった。思わず潤んだ瞳はキラキラして綺麗だった。

「同じ事、考えてたのね。私も名前様に作ってたの」

綺麗な蒼空色の襟巻きと手袋と腹巻きを受け取った。俺たちキョウダイみたいだね、と笑えば秀麗も頷いて笑った。
そんな2人の感謝の気持ちはみんなに届き心を暖かく灯した。

end


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