short | ナノ


トアル宮城で、お菓子をむしり取るお化けが出没していた。



「Trick or Treat!お菓子をくれなきゃイタズラするぞ!」



バーン!と扉を開けて現れたのは白いシーツを被った…白いお化けだ。居合わせた三爺はポカーンとして茶器を持つ手を止めた。



「名前や、何をやっておるのだ」

「何!?コイツが名前なのか!霄よくわかったなあ」

「この城内でこの言動は名前殿しかおらぬじゃろう宋の」

「なんだと、茶の、お前もわかったのか!」

「「……宋」」

「霄様も鴛洵ジイ様もバラすなよ――!」



ビックリさせようとしたのにかわされた。さすが長く生きてると耐性もつくってやつなのかちくしょー。ゴソゴソとシーツを脱いだ名前は空いてる椅子に座って自分でお茶をいれ飲み干した。



「そんな反応じゃつまんないよー俺が!」

「各部署に突然現れて面妖な呪を吐きながら『菓子』を奪っていく奴なんぞ一人しかおらんだろ。被害にあった部署は菓子を用意しておけと伝達したようでな、難なく菓子を貰えたじゃろう?名前よ」

「うん。礼部と兵部に突撃した後から工部も吏部も戸部もお菓子が用意されててさーイタズラ出来なかったんだぜ。せっかく用意してたのに」



よく吏部戸部に突撃出来たものだと三爺は名前を化け物を見るような目で見つめた。そのイタズラも蜘蛛の糸のように細く細く長く切られた白い紙を丸めて手の平に隠し、それを対象物に向かって投げれば見事な蜘蛛の巣が出来上がる。それをやられた部署はいろんな物が絡む紙糸を取るのに相当な時間と労力を使ったという。可愛らしいイタズラだが実にえげつない結果となっていると名前はわかっているのだろうか、いや知らないだろうな。楽しそうに笑う姿を見れば裏側を教えなくてもいいかと思えてくる。実に名前に甘い三爺だ。



「残念じゃったのう名前殿」

「うん。すごーく残念。じゃあじゃあ、霄様たちは!?お菓子!」

「梅饅頭じゃ」

「え、これ霄様の食べかけじゃん!いらないよー」

「三師の食べかけなんぞレアじゃろうが!」

「食べかけはさすがにマズいじゃろ霄…」

「ますます変態に磨きがかかったな霄」

「うっさい!お前らだって梅饅頭の食べかけしか持っとらんじゃないか!」



つまり菓子は用意されていないと言うことだ。まさか三爺にまで突撃するとは誰も思わなかったし、そのシーツお化けが名前だと気付いている者はきっと各尚書と侍郎、上層部くらいだろう。被害にあってから気付いたり騒ぎを聞いて気付いたりと様々だが、名前じゃなかったら菓子も用意されず門前払いでこの騒動は早く終わっていたかもしれない。



「ふっふっふ。お菓子が無ければイタズラだ――!!」

「はやまるな名前!?」

「問答無用!うりゃあぁあああ!!」



ぶわあっと名前の懐から蜘蛛の糸が噴射され三爺に絡みついた。もがく爺、髭が糸に絡まるの図……変なタイトルをつけ満足した名前はひゃっひゃっひゃ〜と怪しい笑いを残して消えていった。



「………ところで、斗利化鳥糸とは何の呪じゃろう」

「とりかとりいと、か……何かの暗号かのう?宋の」

「聞くなよ」



それこそ何の呪文だ。
爺の耳にはそう聞こえていた。




***









うっひゃっひゃ〜と笑いながら廊下を爆走中の名前は次なる現場に向かった。扉の前でシーツをかぶり、いざ!はろうぃーん!



「とr…」


扉に手をかけようとしたら勝手に開いた、いや、旺季が扉を開けて立って待っていたのだ。相変わらず渋いぜ…



「お待ちしておりました。どうぞ名前様」

「え、あ、はい」



バレてら!どうぞと門下省長官の部屋に通された。あれー?ハロウィンってこんな静かな行事でしたっけ 。椅子を引かれ腰を落とした。シーツはかぶったままである。



「お菓子はこちらです。名前様の好きな焼き菓子を用意してみました」

「旺長官はなんで俺だってわかったの?」

「不可思議な事態は殆ど名前様の仕業なので何となくです」

「殆ど……く、言い返せない!」



シーツを脱いで出された焼き菓子をモグモグしながら旺季のズバリ言うわよに反論も出来ずただ茶をすすった。



「………次のとこに行く。焼き菓子ありがとう旺長官」

「いえ。また遊びに来なさい」

「はい!」

「普段の姿でお願いします」

「……はい」



シーツをまたかぶり門下省長官の部屋から出た。突然現れたシーツお化けに周りは腰が抜けたように床に尻餅をついて動かなかった。それを見て旺季は深い溜め息を吐いた。



「これが本当の腰抜け……お前たち、これしきの事で情けない」



フン、と鼻で笑われた。シーツお化けを自ら招き入れる肝の据わり方が尋常ではない旺季の姿に震えた。







***






ツッタカツッタカ走り回りお菓子が用意出来てない、間に合わなかった所から悲鳴と怪しい笑い声が響いたという。楽しそうで何よりだ。菓子を貰った後やイタズラ決行した後には「ありがとうございます」と「お邪魔しました」をきちんと言い残しているため誰も怒る者はいなかった。僅かな休憩時間を貰ったとでも思えば、このあと片付けが待っているとわかっていても笑みがこぼれた。諦めの笑みとも言う。頑張れ官吏様!
名前は府庫に寄り邵可に会った。机には小さなお饅頭が一つお皿に乗って置かれていた。



「いらっしゃい。名前殿」

「ふー。ちょっとはしゃぎすぎたかな。ありがとう邵可様」



シーツをかぶったままお饅頭をモリモリ食べて父茶を飲み干し昇天しかけた。忘れてたぜ。
この騒ぎは府庫から始まった。10月の末だと言う邵可の言葉にハロウィンを思い出したのだ。子供たちが仮装して各家にお菓子を貰いに行くんだと説明すれば「お菓子かあ」としみじみ呟いたのを聞いて名前は菓子強奪違ったお菓子を貰いに練り歩いてくるかと考えた。つまりは邵可邸のためにひと稼ぎしてこよう計画。



「よっこいしょ、と…これ邵可邸にあげる!」

「お……こんなに大量に、いいのかい?」

「うん。一年に一度しかやらないんだからため込んでるお菓子ぶんどったっていいじゃない。お菓子はみんなに分け与えなきゃ!ね!」

「そうだね。一年に一度しかないんだからいいよね。ありがとう名前殿」



秀麗も喜ぶよと笑った。うん。それが望みだからね。よし!と気合いを入れて椅子を立ち次なる現場へ走っていった。女官になった時に必ず訪れるお茶タイム用のお菓子ゲットだぜ。この騒動はすべての役所を回り終えた夕刻まで続いたそうだ。
ぶんどった菓子たちを屋敷に持ち帰った邵可は秀麗にその袋を渡した。



「どどどーしたの!?こんな大量のお菓子なんて」

「名前殿からいただいたんだよ。秀麗にどうぞって」

「名前様が?いいのかしら」

「名前様だからいいんですお嬢様。ありがたく貰っておきましょう」



邵可と静蘭に言われ素直に頂戴しておく事にした。名前様って不思議な方よね、と秀麗がこぼせば邵可と静蘭もしみじみと頷いた。
結局、お偉方以外はシーツお化けの正体もわからぬまま名前の一人勝手にハロウィン計画は幕を閉じシーツお化けの噂も次第に消えていったそうだ。




ハッピーはろうぃーん!



end




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