Diary
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よく晴れた昼のこと。
空は青く澄んでいて、赤や黄色、緑が鮮やかでどこを歩いていても絵にしたくなるような美しさを感じた。
この学園の生徒に嫌われているのは知っている。
俺に関わろうとする変わった奴らもいるが。
騒ぐ連中の中で落ち着いて絵が描けない、そう思った俺は奴らが来なさそうな所を探し歩いていた。
そうしていると、いつの間にか小さな森の中にいた。
「ここならさすがにエルナや二宮は来ないよな」
木の葉の隙間から指す太陽の光、自然の緑。
きれいだと思う。
でもそこにはこの学園の生徒だと思う奴がいた。
そいつは木の下で小動物や小鳥に囲まれて寝ていた。
俺はその姿が微笑ましくて、正面に静かに座りスケッチを始める。
しばらくして、スケッチが終わる頃、そいつの目が覚めた。
不思議そうな目で俺を見る。
「………おはよう、ございます」
「あぁ」
ゆっくりと起き上がり、周りの動物を撫でてから俺に近づいてくる。
「…優しい線、ですね」
「そう、か」
「……もう少し、見ていてもいいですか?九頭竜先輩」
思わず鉛筆を止めた。
「迷惑、ですか?」
「いや。……お前名前は?」
「倉科、冬瑠です」
こいつ、倉科の名前は聞いたことがあった。
ルーキー戦の時。確か期待値3位だった気がする。
顔までお覚えてなかったがこいつだったのか。
話しながらもスケッチを進めていたから、倉科に名前を聞いたところで完成した。
それを見ていた倉科はこの絵をくれと言った。
「構わないが、倉科もモノ好きだな。俺の絵なんか……」
「……九頭竜先輩だから、ですよ。きれいで、まっすぐで、優しい。そんなところが絵に現れていて……」
「ん?俺の絵、見たことあんのか?」
倉科は頷くだけ。何も言わない。
俺も何も聞かない。
「ほらよ」
「………ありがとう、ございます……!」
俺の絵を受け取った倉科の笑顔が眩しかった。
その笑顔が見れるなら、俺はまた未完成だと言われた才能を、完成に近づけようと思えるように少しはなった。
「………また今日みたいな天気の時に来る」
それは明日か明後日か。いつになるか分からないが、倉科は「…待ってますね」と言って、部室に戻ろうとする俺を見送った。
昔から眩しいのが苦手な俺が、気まぐれで部室の外に出た今日は、エルナや二宮とは違うモノ好きと出会った。
俺はそいつの眩しい笑顔を見るためにまた小さな森に足を運ぶ。
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