「「アルファード!」」

夏季休暇に入る前日、フレッドとジョージはアルファードが一人静かに本を読んでいるところに飛び込むように駆けていった。

「お前達は、年度の最後までうるさいんだな」

 図書館から借りていた本の貸し出し期限は今日までで時間の許す限りは読み進めようと思っていたアルファードだったが、どうもそうはいかないらしい。栞を挟んで本を閉じ、ため息をつきたげな顔で二人の方を向いた。

「だってアルファード、今年度全然ホグワーツにいなかっただろ。最後くらい話してもいいと思うんだよな」
「どこで何をしてたかなんて詮索はしないけど、話に付き合ってくれるくらいはしてくれてもいいんじゃない?」

 アルファードの人となりを知ったのが昨年度の頭で、もうほぼ二年が経過しようとしている。アルファードもフレッドとジョージのうるささにはもう慣れてきたことだろう。二年ほど前よりは明らかにアルファードの二人への態度は軟化していて、二人は内心で嬉しさを感じる。それを本人に言うことは絶対にないけれど。
 二人が提供した話題は、今年度二人の周りであったこと、授業の愚痴、弟の話、対抗試合で優勝したハリーの話、惜しくも敗れてしまったセドリックの話、対抗試合に出場したクラムの話とフラーの話もほんの少し。そんなアルファードにとっては心底どうでもいいだろうことだったが、アルファードはそれをつまらないと一蹴することなくたまにアルファードらしい相槌を挟みながら聞いていた。

「アルファードは夏季休暇に何するんだ?」
「今年もつまらん予習に専念するのか?」

 フレッドもジョージも、アルファードがマルフォイ家にいても特に大したことはすることなく、教科書を先に読んでいるなどというなんとも二人にしてみれば気が狂いでもしない限りすることなどないと言い切れる過ごし方をしているのだと知っている。昨年の夏休みにクィディッチワールドカップがあるからとなんとか外に連れ出そうとしたがアルファード本人が興味がないと拒否された。今年はなんとしてでもマルフォイ家から引っ張り出したいところだ。

「いや、今年は本家にいる」
「「本家?」」

 考えていなかったアルファードの言葉に、二人は寸分の差もなくアルファードの言葉を反復した。

「ああ。現在ブラック家の今はほぼ無人の屋敷だ。僕も祖母が亡くなる前まで住んでいただけだが、卒業した後はそちらで暮らすことになる。その準備といえば準備でな」

 だから、マルフォイ家にはいない。そう言ったアルファードを四つの丸い目がしっかりととらえる。アルファードの顔は何ひとつ変わりはないはずなのに、どこか楽しそうな表情をしているように感じられた。

「……どちらにしても会えないことには変わりないだろ」
「さあ、どうだかな」
「何言ってるんだよ、そっちの家なんて行くこともないのに」

 そのアルファードの言葉を夏季休暇中に二人が理解できたのは、実際家族で行ったのがちょうどそのブラック邸だったからだ。



 両親を通してシリウス・ブラックが本当は無実であったことを聞いた時には一生分驚いたと思ったのに、その後実際にシリウス・ブラック本人に会った時にはもっと衝撃があったし、それがアルファードがいるはずのブラック家の屋敷だったことには思わず瞬きを忘れたほどだった。
 シリウスはフレッド達が思っているよりもずっとユーモアに溢れた面白い人であったし、シリウスの方も来訪者を快く歓迎してくれた。シリウスは自分たちと同じく今日この屋敷に来てここに住み、ここに不死鳥の騎士団の本部を置くことが決まった。
 それを聞いて思うのはアルファードのことだ。アルファードは今どうしているんだろう、どこにいるんだろう。シリウスがここで暮らしているということは、別の場所にいる? 考えても答えらしきものは全く浮かんでこないので、一番早い方法であること、聞いてみることにした。

「シリウス、アルファードはどこにいるんだい?」

 そう両親やルーピン先生がいる中でシリウスに尋ねて、その後でシリウスがアルファードのことを知らない可能性があることに気がついた。思わず二人で顔を見合わせて、おそるおそるシリウスの顔を見上げると彼のアルファードに似ている顔は笑っていた。

「アルファードのことを知ってるんだな。あいつもここにいる」
「アルファードがここにいるのか!?」
「どこに? どこにいるんだ!?」

 シリウスは食いつく二人に声をあげて笑った。その様子をルーピン達ももちろん見ていて、微笑ましいものを見る顔、そしてなぜその名前が出るんだという困惑の顔もあった。主に父の顔である。

「ああ、あいつは──」



「「アルファード!」」
「お前達は夏季休暇でも変わらないな」

 シリウスから教えてもらった部屋のドアを開けると、そこには見慣れたアルファードの姿があった。本当にこの前までと変わらない、ただ制服を着ていないというくらいだ。

「アルファードがここにいるのは知ってたけど、シリウスまでいるなんて聞いてないぞ!」
「あの時は僕も知らなかった。おかげでうるさい休暇になりそうだ」
「でも、休み中も会えたから俺達の夢が一つ叶ったな」
「長期休暇中に僕に会うのが夢だったのか? 変わってるな」

 なんだかんだ言っていても、アルファードも嬉しそうだ。本当は前から、シリウスがここに来ることもフレッド達がここに来ることも全て知っていたんじゃないかとも思う。アルファード本人が知らないと言っているのだから、本当うは知っていたんだろうなんてことは言えないけれど。

「今日はアルファードの部屋で寝るぞジョージ」
「やめてくれ」
「パジャマパーティか? それいいなフレッド」
「僕の安眠が……」

 そんなことを言っていてもアルファードもなんだかんだで嬉しそうなのだから、二人は決行する以外の選択はないのだ。




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