「なあアルファード、」
「……少し前から思っていたが。お前達に名前を呼ぶ許可を与えた覚えはない」

 アルファードは相も変わらずフレッド達に冷たい言動をとる。つんとすましたようなその言葉は彼らを突き放しているようで、しかし二人は彼が話しかけること自体を拒否しているわけではないことを理解している。それが、アルファード自身が認めてはいなくとも。

「別に許可のいるものでもないだろ」
「名前を呼ぶくらいいいじゃないか」
「はあ、そもそも呼ぶ必要すらないだろう」

 アルファードの人となりは少しずつフレッドとジョージに理解できてきた。こうは言ってはいるものの、心の底から嫌がっているわけではない。日々の中で彼が感情をあらわすことは少ない。ほぼ無いと言っていいほどだ。それが、フレッドとジョージが話しかけた時のみうっすらと人らしい感情を見せることが、二人にとって嬉しいことだと気づいたのはつい最近のことだ。
 唯一、アルファードの家庭環境について尋ねた時のみ強い拒否を感じはしたため、フレッドとジョージはそれについて彼に向けて話すことはしない。彼への嫌がらせをしたいわけではないからだ。

「あいつには呼ばせてるのに?」
「なんのことだ」
「あいつだよ、セドリック・ディゴリー」

 あくまでしらを切り通すつもりだったらしいアルファードに確信をつけば、ああ、彼か、と白々しくもたった今気がついたかのように言うのだから、本当に自分達にセドリックとの親交を自ら話すつもりはなかったのだと知った。

「単にディゴリーが、僕が思っていたよりも随分と人が善かっただけだ。今年に入ってすぐに僕に、あれのことなど気にするなと言いにきてくれた。それから事あるごとに声をかけてくる、それだけだ」

 確かにあの根っからの善人はそういうことをしそうだ、とフレッドもジョージも納得する。二人とセドリックも幾らかの交流はある。それは同じ校内クィディッチ選手であることや、同じ学年であることなどだ。

「それは確かにそうだが」
「でも悲しいな、俺達以外に仲いい奴がいたなんて」

 ジョージがほんの少し泣き真似をしてみると、アルファードは馬鹿正直に考えているのか首を捻っている。

「仲がいい……?」
「おいおいそんなに真顔で考えないでくれよ」
「友達だと思ってるのは俺達だけだったなんてさらに悲しくなっちまったよ」

 真実、二人はアルファードのことを親友まではいかなくとも友人の分類であると思っている。けれど、アルファードはそうではないのだろうか。
 アルファードはそれから少しの間考え込んだ後、ようやく口を開く。

「僕は知らないんだが、そもそも友人とは何をしたら友人になるんだ」
「はあ?」
「はあ?」

 ひとしきり神妙な顔をした後にアルファードが言った言葉は、それを聞いていた二人には瞬時に理解できるものではなかった。生まれてから今に至るまで、フレッドもジョージもそんなことを考えたこともなかったからだ。

「お前、本気でそれ言ってる?」
「お前達は、僕がお前達のように冗談が言える人間だと思っているのか?」
「いいや、全く」

 どうやらアルファードは生涯で一度も友人を作ったことがないらしい。以前はつまらない人間だと思っていたが、蓋を開けてみればアルファードは別にマルフォイ家のご長男のように高慢ちきでもなければこうして二人が話していても鬱陶しいだろうにそれを声に出すことはない。友人が寮を問わずいるとまではいかなくとも、一人や二人はできるだろうに。

「お前、可哀想な奴なんだな」
「そう言われる筋合いはないが」
「まあまあ、そんなことなら俺達が友人って誇ればいいぜ」

 なんだそれは、と訝しげに二人の顔を見たアルファードに、二人は笑って息をぴったり合わせて答えた。

「友達なんて、何かをやってなるもんじゃない」
「確かに話したこともない奴は友達とは言えないけどな」
「話して嫌だと思わなくて、仲良くなりたいと思ったらそれは友達になりたいってことで」
「お互いに仲良くなりたい意思があったらうまくいかないわけがないから絶対仲良くなるし」
「気兼ねなく話せるようになったらそれはもう友達なんだよ」

 フレッドの言いたいことはジョージに完璧に伝わっていて、ジョージが話したことに続きは一言も違うことなくフレッドが口にする。そんな双子の仲は他の誰よりも近いと自負しているが、それでも二人だけの世界にいたいわけではない。二人も色んな人と親しくなって、そうすれば世界はどんどん広がるものだ。
 だから、フレッドもジョージもアルファードと仲良くなりたい。きっとアルファードの世界はひどく狭く閉ざされているだろうから。
 二人と同じことをセドリックが考えているのかはわからないが、アルファードに悪影響を及ぼすことはないはずだ。

「まあ、俺達がアルファードに友達になりたいと思われるのは時間がかかると思うから」
「アルファードを呼んで距離を縮めることにするよ」

「…………はあ。どうせお前達は僕がなんと言っても呼ぶんだろう。勝手にすればいい」

 二人は顔を見合わせてアルファードに気づかれないようにひっそりと笑った。アルファードが嫌がっていない言葉なのだとわかったからだ。




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