「なあルーピン先生、先生もホグワーツの卒業生だろ?」 「ホグズミードに行ったことのないやつを最初に連れて行くならどこがおすすめだと思う?」 今まで在学してきた四年と少しの間で一番まともな闇の魔術に対する防衛術の教師であるルーピンへの好感度は、フレッド達の中でかなり高い。授業はわかりやすく、フレンドリー。フレッドとジョージが心を許すまでにそう時間はかからなかった。 「ホグズミードかい? 私がいた頃は今から十何年か昔だから、別の店に変わっている可能性もあるよ?」 こうして突然訪ねてきたフレッド達を快く部屋に入れてくれて、これでも食べるかいとチョコレートのかけらをくれるのだから、ルーピンはセドリックに並ぶ善人の鑑だ。 「俺達としてはゾンコの悪戯専門店に是非とも連れて行きたいんだけど、そいつは気に入りそうもないからな。ここは一般的におすすめの場所を知りたい」 「はは、君達もゾンコの店が好きなんだ。確かにあそこは人を選ぶかもしれないね。少し待っていて。ちょうどいい茶葉を校長先生からもらったばかりなんだ」 学生時代を思い出しているのか、ルーピンは懐かしそうな目をする。 「ということは、君達が連れて行きたいという人はかなり真面目な人だね?」 「先生大正解」 「くそ真面目で面白さのかけらもないやつだよ」 「でも、そうは見えない君達は、その真面目な人を連れて行きたいんだね。友達かい?」 ルーピンのその軽い問いかけに、二人はなんと答えるべきか迷った。友人というほど身近ではなく、だが単なる同級生とも言いがたい。 「……他の寮の同級生、だな。最近そいつのことを知って、多分そいつはホグズミードとか行ったことないと思って」 「へえ、ホグズミードに行ったことがないだなんて珍しいね。許可はもらえているのかな?」 「……マルフォイが行ってるんだから、多分あいつも行けると思うんだよな」 マルフォイ家は年齢の違うルーピンでも知っているようで、ああ、あの、とあの小憎たらしい男子生徒を思い浮かべたようだ。 ルーピンは話を聞きながら、戸棚からカップを三つ取り出す。 「マルフォイというと、スリザリンのかい?」 「ああ。スリザリン生で、家族がいないからマルフォイの家にいるらしいんだ」 「そうなんだ。名前は?」 「アルファード・ブラック」 保温の魔法がかかったカップ三つに紅茶を淹れながら何気なく聞いたルーピンは、フレッドの言葉にぴたりと動きを止めた。 「……ブラック?」 「ああ、あのシリウス・ブラックの息子なんだとさ」 まさかあの殺人鬼、シリウス・ブラックの子供と仲良くしたいとグリフィンドール生のウィーズリー兄弟が言うとは思わなかったのだろう。 数秒を経た後、動き出したルーピンはどことなくぎこちない手つきでフレッドとジョージにカップを渡した。彼自身のカップにスプーン五杯も砂糖を入れているのはその動揺のせいだろうか。 「勘違いしないでくれよ、先生。父親はあれでも、アルファードはシリウスとは関係ないところで育ってるんだからな」 ルーピンは、フレッドとジョージの父であるアーサーよりも少し下の学年のグリフィンドール生だったと聞く。グリフィンドール出身のルーピンなら、もしかしたらシリウス・ブラックの子供であるアルファードにあまりいい印象を持たないかもしれない。そう考えたフレッドは慌てて言葉を添える。 「ああ、わかっているよ。彼はとても真面目に授業を聞いてくれているからね。けれど、アルファードと君達との関係がよくわからないな。どうして君達が一緒にホグズミードに行くほど仲良くなったんだい?」 どうやらルーピンはアルファードのことを何も知らずに決めつけるような人間ではなかったらしい。二人は同時にほっとするが、ルーピンの続けた言葉に、視線を交わす。 ルーピンはいい先生だ。こうして一生徒であるフレッド達に茶を淹れてくれて、シリウス・ブラックの子供だとしてもアルファードのことも悪く言わない。そんなルーピンは信頼できる。ただ、信用していいものだろうか。さすがに他の家の事情を他人に話すのもどうかと思うし、言いふらされるのはアルファードは嫌な気分になることだろう。 だが、もしかしたらルーピンは秘密にしてくれてかつ何かいいアイデアをくれるかもしれない。 「……誰にも、言わないって約束してくれるか?」 「ああ、もちろん」 なんなら、破れぬ誓いを立てようか。そう言ってくれたルーピンを、フレッドとジョージは信じることにした。 「アルファードの身体に、傷があるのを見つけてさ、なんかほっとけなくて。古い傷で、他の人には誰にも言ってないみたいだったんだ。……アルファードは、教育によるものだって言ってて。先生、教育でむちの痕があるってそれは、虐待、なんじゃないのか?」 「…………そう、だね。それほど古そうな傷ならば、家でつけられたもの、なんじゃないか」 真実を伝えたルーピンは、表情の読めない笑みを浮かべていた。貼りつけたような作り笑いではなく、たくさんの表情がないまぜになったような。そんな顔をしていた。 「それで、今度はなんなんだ」 「心優しい俺達がアルファード殿にホグズミートを案内してしんぜようと思いまして」 「果たしてエスコートに両側から腕を固める必要があるのか?」 「この方がよりホグズミートを楽しめるんじゃないかと思ってのサービスさ」 「実に不要な気遣いだ。だがどうせお前達が満足するまで帰らせる気はないんだろう」 「ご名答! そういうことで、最初の目的地は叫びの屋敷だ」 「運が良ければ謎の叫び声が聞こえるかもな」 「その次はスクリベンシャフト羽根ペン専門店、お堅いアルファード様も気に入りの一本を見つけられるかも?」 「おっとダービッシュ・アンド・バングズ魔法用具店を忘れるな? なにせ俺達はクィディッチ選手だ、ちょうど箒みがきセットが買い替え時だったんだ」 「「最後は俺達の大本命、ゾンコの悪戯専門店だ!」」 「お前達の用事のついでなんじゃないか。僕は興味ない」 「まあまあそう言いなさんなって」 「アルファードももしかしたら気にいるかもしれないぜ?」 |