フレッドとジョージは考えていた。必ずあのアンブリッジのいるこのホグワーツから出て行ってやるのだと。
 二人はもう今年度の終わりにはホグワーツを去ることはもう心に決めた。それでもかわいい後輩達にあの女を残していくなんてことはしたくなどない。これは自分たちの卒業を待っている場合ではないのだが、二人には確実にアンブリッジを追い出せる策は持っていなかった。あの女を何とかして堅苦しい魔法省に放り込んでから晴れ晴れとして卒業したかったものだ。

「ジョージ、どうやって俺達の退学をみんなに祝ってもらおうか?」
「ああフレッド、盛大な門出にしたいよな」

 三日間で二人分の頭を捻りに捻った結果、これまでの集大成を学年末試験の直前に大盤振る舞いしようじゃないかという結果にまとまった。おおまかなプランが決まればそこからは詳細なんて決めなくていい。メインに何を据えて、その周りは派手であればなんでもよし、とにかくひたすら盛り上げる。ただそれだけだ。
 準備は着々と進んでおり、二人の店舗も数日前から臨時休業して商品をありったけホグワーツに持ち込んだ。自分達の旅立ちの日なのだから目一杯盛り上げたいからだ。ほぼ全ての商品をぶちかますだけぶちかましてから堂々と出ていくつもりである。

 ただ、二人の心配事があるのはそれは間違いなくアルファードのことだ。昨年と同じようにアルファードとは休日に会うことができていない。あの小憎たらしいマルフォイが「アルファードはブラック家を継ぐ準備をしているんだ」となぜか自分のことでもないのに鼻が高そうにいうものだからフレッドとジョージはたまったものではない。彼のせいで『ダンブルドア軍団』の解散を余儀なくされたのだから、そのこともありいらだちが募るばかりだ。けれど二人のホグワーツ最後の日は刻一刻と迫ってきていて、アルファードを待つのなら計画は全てが台無しだ。どうしたものかと考えていたが、結局二人の計画は決行することにした。



 二人とて、世話になった人に最後の感謝の言葉くらい交わさない人間ではない。まずは一番の友のリーへそのことを告げ、彼が卒業してからすぐに二人の店に遊びにきてくれることを約束した。リーとはホグワーツを卒業した後も良い関係を続ける仲になりそうだ。
 ハリーやロン達にはサプライズとして言わないことにした。どうせすぐに会えるのだし、言わない方が彼らは楽しめるだろう。その後同じグリフィンドール寮の仲のいい生徒に声をかけた後は同学年のセドリックを捕まえた。

「セドリック、今まで世話になったな」
「俺達、来週の期末試験の直前に退学することにしたから」

 品行方正の塊であるセドリックには呆れの言葉をもらいそうだと思ったが、予想に反して彼の顔は晴れたままだ。

「君達なら最後にこういうことをすると思っていたさ。最後なんだから満足するくらいにやってくれよ」

 そう言ったセドリックは、僕にはそういうことはできないからね、と少しだけ羨ましそうな表情を浮かべた。まるで二人のやることなすことを眩しく見ていたらしかった。

 二人が考える全ての挨拶すべき人へのそれを終わらせた後、残ったのは問題のアルファードだ。アルファードに会うことがが最も大変で、なかなかタイミングが合わず、結局アルファードを捕まえられたのは二人がホグワーツを出ていく二日前のことだった。

「アルファード!」
「やっと捕まえた!」

 人気のない廊下で見つけたアルファードを二人で両脇からしっかりと腕をつかみ、いつも三人が話をしていた場所へと連れてきた。捕まったアルファードはといえば特に抗うこともなく素直に従っていた。

「お前達は二年前から特に成長はしていないようで何よりだ」
「はいはいアルファードのそれにももう慣れたさ」
「アルファードも元気そうで何より」

 二年前、アルファードの体の傷を見つけてしまってから同じように無理矢理連れてきた時はまだ二人はアルファードの人となりは知らなかったし、アルファードも二人に心を開いてはいなかった。今は心を開いているのかとアルファードに聞けば絶対に否と返ってくるのは分かりきっているが、それでもフレッドとジョージはアルファードが以前よりも接する性格が違うことを知っているから聞かなくてもいいと思っている。

「それで、何の用だ」
「ああ。アルファード、俺達ここを退学することにしてさ」
「アルファードに挨拶しないとなって思って」
「退学……」

 最近は表情が豊かになったと感じる二人だが、まだまだアルファードがそれを浮かべるのを見るのは慣れない。今は目を丸くして呆けたように二人を交互に見ていた。

「……確かに、お前達のやりたいことはホグワーツでは学べないだろうということはわかる」
「そうだろ? 結局俺達は当初の目的は半分くらい達成できているからな」
「もちろん目標は叶えたらまた別の目標が出てくるものだ、次の目標はゾンコの悪戯専門店よりも俺たちの店の売り上げを伸ばすことさ」
「それはまた大きな目標だな。新規の店が既存の店を越えるのは難しいぞ」
「だからこそ目標なんだよ」

 それもそうだ、と頷いたアルファードに二人は顔を見合わせて頷き、同時にアルファードに手を差し出した。

「「アルファード、一緒に来ないか?」」

 鳥籠とも言える純血主義者の楽園、もとい地獄にいたアルファードはもっとこの世界の広さを知るべきだ。もちろん二人だってこの世界の全てを知っているわけではない。しかし、それならば一緒に見に行けばいい。一人よりも二人、二人よりも三人でいればどこへだって行けるはずだ。そうして、アルファードの好きなことを見つけられればアルファードはそれを夢にすればいい。それまでは二人と一緒にいればいい。フレッドとジョージはそう思っている。
 だからこそ、アルファードが二人の手をとってくれさえすれば、しっかりと繋いだ手を離さないで連れていける。その思いで二人はアルファードの目をまっすぐに見つめた。




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