「ここの家主のアルファード・ブラックだ。この建物で何か要望がある時は僕に伝えるように。壊したり盗みなどしなければ基本何をしても問題ないだろうが報告は必ずしろ。四階の廊下突き当たりの部屋は僕の部屋だ。そこと地下、そして今は亡き者のかつての部屋以外はどこでも使っていい」

 フレッドとジョージの二人はアルファードがどんな人間かは以前から知っているが、その他のこの場で初めて彼の声を聞いた者には悪印象かも知れないな、と二人はアルファードの言葉を聞いて考えた。アルファードの声はシリウスの声とよく似ているがとても冷たく温度が感じられず、話し方も他人のことを慮ることは一切なくやわらかい言葉で包もうとする意思もない。現に大人はともかくとしてまだまだ子供のロンは表面の嫌味に見える部分だけで顔をしかめてアルファードへの嫌な印象を隠そうともしていない。
 このブラック家の邸を不死鳥の騎士団の本部にすることで、騎士団はアルファードに借りができることになる。確かに嫡子であったシリウスはいるが、この邸の現在の主人はアルファードだ。アルファードが提示する条件はそれほど難しいことではなく、むしろこれほど簡単なことを満たせばこの場所を借りることができるなんてかなりの破格の待遇だ。それも、位置探索を無効にするものなど昔からかけられている魔法はたくさんあり、存在を隠すのにはぴったりだ。

「ねえ、なんであいつの家を本部にしたんだよ」
「ここが一番安全だからよ。ホグワーツ以外ではね」

 アルファードが部屋に戻った後、早速ロンが不満を口にしているが、それを聞き入れてくれる大人ではない。なんとかこの場所の重要性を説こうとする母を横目に二人は口を挟むことはしない。そんな二人にシリウスが近づく。

「二人とも、アルファードと親しいのかい?」
「ああ。友達だと俺達は思ってるよ」
「向こうはどうだか知らないけどな」
「君達は僕がホグワーツにいた時から仲良くしていたみたいだからね。もう二年くらいか」

 シリウスと双子にルーピンも加わって、アルファードを前から知っている人の集まりができた。シリウスは昨年度にアルファードと会って既に話していたらしい。去年アルファードが外出してばかりだったのはそのためのようだ。

「あいつ、あんなだけど悪いやつじゃないからさ」
「できればみんな仲良くとはいかなくても悪いやつじゃないとは認識してほしいよ」
「……ああ、俺もそう思う」

 二人が珍しくふざけずにそう言うと、シリウスとルーピンは顔を見合わせてから頷いた。



「……だから、アルファード・ブラックがここにいるんだ」

 ハリーがブラック邸に来たのはそれから少し経ってからのこと、その時にはもう一人のロン達の親友のハーマイオニー・グレンジャーも邸にいた。ハーマイオニーの両親はマグルだから不快感を示すのではないかと少し不安になっていたが、アルファードはそのようなそぶりは見せず、かといって大歓迎というふうでもなくハーマイオニーを邸に入れた。
 ハリーは以前双子に物申してきたくらいだから今回もアルファードに反発するのではないかとこちらも心配ではあったが、実際はそんなこともなく、困惑した視線を送るだけにとどまった。思うところはあるのかも知れないが、みな大人になったのだろう。

 アルファードと客人の関係について、シリウスとルーピンとフレッドジョージは問題なく話ができるがその他は満足にコミュニケーションをとれていないみたいだと思っていたが、どうやらそれは二人の杞憂であったようだ。よく観察してみると、二人の母は天涯孤独のアルファードを哀れに思ったのか積極的に話しかけていて、最初は彼に対していい顔をしていなかった父もアルファードが害をもたらさないと理解したのか同じ空間にいても眉間にしわを寄せることがなくなっていた。ハーマイオニーはできるだけ普通に対応しているよう心がけているように見えるが、ハリーはアルファードと目を合わせようとはせず話もしないように避けているようだった。なんとかアルファードの悪印象を払拭したいところだが、なかなかそれを果たすのは難しいようだ。

 そんな感じでアルファードは誰かを追い出すこともなく、始まってほしくない新学期がじわじわと近づいてきていた。そんな時に、二人はアルファードのそれに気がついた。




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