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聖域に連れて来られた男の子の名前はアフロディーテと言うらしい。

それが本名かそうではないかなど知らなかったが、初めて聞いたときに男のくせにアフロディーテなんて変な名前だと思ったことを良く覚えている。
しかし実際彼は名前にぴったりの容姿を幼いながらに持ち合わせていたし、黄金聖闘士だったから、私はとてもそんなことを彼に言うことはできなかったなかった。

アフロディーテは黄金聖闘士で、私は女官だった。
聖域で女官になるために小さいころから経験を積んでいた私は、彼と年が近いこともあって、彼が聖域に慣れるまでの案内や補佐をすることになったのだ。

本来なら私たちの間には立場の差がある。だから私は彼に様をつけるべきなのだろうが、幼い頃から一緒にいたためか自然と敬称などどこかへ行ってしまった。


それがそもそもの間違いだったのだ。
その時からきちんと分別さえ弁えていれば今こうして困ることはなかった。

そんな考えを胸に抱きながら頬に触れるふわふわの金髪をどうすべきか悩む。
ああもう、最近は悩みっぱなしではないか。それもその大半というかほぼ100%がアフロディーテのことなのが重大な問題だ。彼はそんなに私を悩ませて一体何がしたいんだ。そこまで考えてその思考に意味がないことを理解した。この間冗談交じりにそれを言ったら、アフロディーテは嬉しそうに笑いながら「これからも私のことだけ考えていてくれればいいのに」と恐ろしい台詞を口にしたのだ。それを聞かなかったことにしたのは言うまでもない。


アフロディーテ。


私の大事な友人にして悩みの根源たる上司であり主人だ。
そう、主なのだ。それなのに私は彼をアフロディーテと呼ぶ。

さすがに正式な女官と勤務することとなったときに直そうと決意しそれを告げたのだが、アフロディーテの機嫌が急降下、さらに私を絞め殺す気かと思う強さで抱きながら「私と距離が起きたいのか」とか訳の分からないことを言ったから諦めた。


「苦しいよ、ディーテ」

「様などつけないでくれ」

「分かりました、敬称はつけないで呼ばせて頂きます」

「敬語も嫌だ」

「せめて外ではつけないと、誰かに聞かれた時に私の仕事無くなりそう」

「そうしたら私が養うから構わない」

「いやいや構ってよ、仕事無いとと困るし、さすがにディーテに養ってもらうのはちょっと……」

「何か文句があるのか」


何故か威圧感をにじませながら問いかけられて即答で首を横に振る。そんな私に満足げに笑いながらも、アフロディーテが背中に回した手をどかしてくれる気配はなかった。


「なまえ、ずっとここにいて欲しい」

「う、うーん……ずっとかぁ……」

「私の傍にいてくれ」

「いたたたっ! 苦しいって! うん、わかった、分かったから離してよ、ディーテ!!」

「約束できるかい」

「いいよ、約束!」


アフロディーテはとても綺麗な顔をしている。

そして内面も外面に引けを取らないほどしっかりと自分の意思というものを持つ強い人だ。そんな彼に私が釣り合わないことなど分かっていたし、私より少し年下のアフロディーテが聖域に来てから世話をする私を姉のように慕ってくれるのは悪い気もしなかった。

アフロディーテが私を姉だなんて思っていないことなど知りもしなかったし、どうせあと数年もすれば互いに恋人でも作ってこの関係が終わるのだと安易に考えた私は、結果として彼の白い小指に小指を絡めて約束したのだ。

「約束。」

(軽い気持ちの口約束が私の人生を縛ることになるなんて予想もつかなかった)

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