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笑いながら、くるくると意味もなく回転を続けるなまえにため息をつく。
随分と楽しそうだがとうとう本格的に頭の中まで花畑になってしまったのだろうか。

無視しておこうと思ったのだが、やはり視界の端でくるくるくるくると回られるのはうざったい。近くに来たなまえの腕を掴み怒鳴りつける。

「なんだと言うんだ、お前は。朝からぐるぐるぐるぐると回転ばかり!」


いい加減にしろという思いを込めて言った言葉だったのだが、対するなまえはよくぞ聞いてくれたとばかりに顔を輝かせてさらに一回転してみせた。そのまま俺の手を握ったなまえが嬉しそうに笑いながら原因を口にする。


「あのねカノン、ソレントが私の歌にフルートを合わせてくれたの!」

そのままなまえはきゃっきゃと俺にはまったく理解のできない楽器について熱く語り始める。

下らない、そんなに喜ぶものでもないだろうに。
そもそもあいつはフルートの演奏で攻撃してくるどころか、フルート自体を使って殴り掛かってくるような男だ。そんな男と歌を合わせて何が楽しいのだろうか。

なまえは楽器を武器にするのではなく純粋に歌を楽しむ人間…ではないか。
もともと攻撃力を秘めた海魔女の記憶と魂、そして声質を受け継いだなまえの歌声は現代にいたるまで十分に人を魅了する攻撃的な力を秘めている。

互いに海魔女でもあるし、確かにぴったりといえばぴったりな組み合わせなのかもしれないが、何故かそれが余計に気に食わなかった。

「破壊力二倍だな、もう二度とするな」
「うぇえ!なんでそんなこと言うの、カノン!冷たいわ…って、…もしかしてこれが倦怠期…!?」

馬鹿なことを言いだしたなまえの頭をぽかりと叩く。
それに対しなまえはいつも通り頭の悪い言葉をつらつらと並べ立てる。


「なに、なに!?あっツンデレなカノンのことだから本当は私たちの奇跡のコラボを聴きたくて仕方がないけど言い出せないってやつね!?」
「断じて違う」
「あれ…そう?でも本当にソレントのフルートは綺麗な音よ?私、楽器は全然だけど、今度教えてもらえるように頼んでみようかなって考えているの!」

そして始まるなまえのソレント談議。
いかに奴のフルートの技術が素晴らしく、感動したのかという言葉聞き流す。とてもじゃないが聞いていられる内容ではない。興味がないことを含め、理解のできない苛立ちがつのっていくせいだ。一体なんだというのだろうか。


なまえはそんな俺に気づく様子も見せず、再びくるくると回りだす。
楽しげにソレントについて語るあいつの頭を意味もなく無性に叩きたくなった。さすがに意味もなくやるのは自重するが、本当にあいつの話になど興味はない。

だがなまえは気にしていないのかくるくると回りながら楽しげに会話を続ける。
だんだんと積み重なるように強くなっていくもやもやとした気分の正体は未だつかめない。しかし楽しげに回り続ける馬鹿女が一役買っていることは確かだった。


とうとう我慢できなくなった苛立ちを覆い隠すようになまえを無理やり引き寄せ唇に噛みつく。半ば強制的に終わらせた話と、目の前の間抜けな馬鹿女の顔に幾分気分が和らいだ。なんだというのだろう、本当に意味が分からない。


「な…、…に?」

顔を話した瞬間呆けた顔で呟いたなまえにようやく気持ちが落ち着いた。
結局あの苛立ちの正体は知れないままだったが、知らずとも恐らく何も問題はない。なんだか知らないが、楽しい気分ではなかった。忘れられるものなら忘れてしまいたい。

「ど…どうしたの、カノン?」
「…別に」


一方のなまえはしばらく目を白黒とさせていたが、やがて俺に飛び掛かってくるといつもの調子で言葉を紡ぐ。不思議なことにその言葉に苛立つことはかけらもなかった。


「カノンからキスしてくれるなんて明日は天変地異が起こるわ!危ないからずっと傍に一緒にいる!」
「あー、勝手にしてろ」

俺の返事を聞くなり、笑顔でくるくると回りだすなまえ。
見ていてウザったいのは変わりなく、黙って奴の頭を抱き寄せた。

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