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※生理痛ネタです





聖域の夏は暑い。というよりギリシャの夏が暑いというべきか。とは言え、日本ほど湿気があるわけでもなく、からりとしているのでそこまで暑さは感じさせないという不思議な気候である。それに、さすがに炎天下をかけまわろうという気にはならないが、だからといって暑くてだるくなり動けなくなるほどでもない。アテネを見たって観光客で溢れ返っているのだから、きっとそうなのだろう。


だから、いつもならば、私も彼らに交じってアテネに食材の買い出しに行くのだが、今日はそんな気分にならなかった。大丈夫、まだ食物庫にはたくさんの食材と、昨日ロドリオ村に行った時に頂いた野菜が詰まっている。そうだ、食事は大丈夫。ああ、でも確か石鹸がなくなりそうだったな。

「・・・」

買いに行きたいけれど、お腹は鈍痛。何かを食べる気分にもならない。最悪だ、とつい呟いてしまうくらいにはだるい。つまるところ、女子特有の例の日が来てしまったのだが、それにしてもここまでひどいのは随分と久しぶりである。ぎゅ、とおなかを抑える。女子の証拠といえば聞こえはいい気もしなくはないが、この痛みはよろしくないと思う。一カ月に一度だけの痛みとはいえ、もうすこし・・・例えば半年に一度、とかにできないだろうか。まあ、つまり何が言いたいのかといえば、この鈍痛と連れ添ってアテネになど行く気にもならないということなのだが。


そんな私の気分の正反対を突っ走るかのように空は真っ青に晴れ渡っていた。


「うう・・・」

下腹部を撫でて、ばさりと白いシーツを干す。ああ、あの半分が優しさで出来ている薬が欲しい。実際には優しさは23%しか含まれていないらしいが、そんなことはどうでもいい。あれはよく痛みを止めてくれる。けれどまさかギリシャの、しかもほぼ男性しかいない聖域に例の優しさの薬があるはずもないなと諦めて息をついた。

ぱちんと洗濯バサミを止める。はたはたと風に舞いながらもしっかりと止まったそれをチェックし、空になった洗濯入れを持って教皇宮に戻る。

「あ、なまえ」
「はい、どうしました、アイオリアさん?」
「丁度良かった。探していたんだ」

片付けてくれると言う女官さんに洗濯籠を手渡したところに、アイオリアさんが駆けよってくる。一度部屋に戻って薬でもないかと探そうと思っていたのだが、いかんせん仕事中だ。アイオリアさんが優先だなと向き直ると彼は困ったように頭をかいた。

「その、今…暇か?」
「え?えーと、まあ今すぐやらなければならない仕事は終わりましたが…?」

そう言うとアイオリアさんは安心したように笑って、そしてすぐにまた気まずそうな顔になる。なんだ、一体なにを頼まれるのだろう。トレーニングに付き合ってくれ?いやいや、さすがにそれはないか。でもこの間ミロさんに付き合わされたんだよなあ…。頭の上に林檎を置いて、ミロさんがかなり離れた所からスカーレットニードルを打ってくるやつなのだが、物凄い恐怖感から、あれから一度もやっていない。あの攻撃がもし私の額に当たったらどうしてくれるつもりだったのだろう。しかもそれで私の額に爪のぽちっとした後が残ったら、シャカさんとお揃いじゃないか!いや、別にシャカさんの額にあるのは爪のあとではないし、彼とお揃いなのが嫌なわけではないが、それは兎も角そうなったらあの人のことだ、私を師として拝め!と言ってくるに違いない。

まあ、とにかくその話は置いておくことにして、それで?今度はアイオリアさんが私の頭の上に桃でも置いてライトニングプラズマでも打ってくるつもりか?は・・・!ま、まさか直接私の頭を狙う訳ではないだろうな!そんなことになったら死んでしまう!!

「お…っ、お断りします!!」
「な、なに!」
「私を殺すつもりですか、アイオリアさん!私の頭はダイヤモンドで出来ているわけじゃないんですよ!ライトニングプラズマなんて当たったら即死します!」

ただでさえ、下腹部が鈍痛を発しているというのに、頭まで痛くなったら私はどうすればいいんだ。う、考えただけでまたお腹が痛んできた・・・。ぎゅうとお腹を、気付かれないように押さえるとアイオリアさんが溜め息をついた。

「なまえ、落ちついてくれ。一体なんの話だ」
「アイオリアさんが私の頭を目標にライトニングプラズマを打ってくるという話です」
「そんなことをするものか!」

小さく息をついたアイオリアさんが、一体お前の思考回路はどうなっているのだと私の頭を撫でてくれる。

「話だが、兄さんがなまえを呼んでいるんだ」
「アイオロスさんが?」
「人馬宮でな。忙しいのなら断っておくぞ。・・・多分、仕事の話ではないから」

確かにアイオリアさんのその意見には同意したい。というより、私はアイオロスさんから仕事の話をふられたことが無い。いつも走りまわって仕事をしている私への、彼なりの優しさだとムウさんは言っていたが、とにかく彼は仕事や任務の話をしない。そんなアイオロスさんだからこそ私を仕事の話で呼ぶわけではないのだろうと考えたが、だとしたら何の用だろうか。彼は呼ぶ前に直接会いに来るから、呼ばれることは本当に少ない。ああ、考えれば考えるほど気になってきた。行きたい気持ちは山々なのだが、サガさんたちに一言も告げずに教皇宮からいなくなったら心配をかけてしまわないだろうか。

「えっと・・・」
「もし行くのなら、サガには俺から話しておくぞ」
「す、すみません、お願いしても良いですか?」
「もちろんだ」
「じゃあ、行ってきます」
「ああ、すまないな」

そう言って笑ったアイオリアさんに手を振って、駆けだす。が、すぐに腹部が痛みだして、結局私はへろりへろりと妙な走り方で十二宮の階段を下ることになった。





「アイオロスさん、呼びましたかー」

プライベートルームの扉をノックして、顔を覗かせればソファに倒れこんでいたアイオロスさんがひらひらと手を振ってきた。

「呼んだよー」
「なんですかー」
「暑いだろうー?」
「暑いですねー」

というか教皇宮からここまで降りてくる間の直射日光がやばかった。悪意ある日光だった。のんびりと答えるアイオロスさんに私ものんびりと返事をする。

「う」
「うん?」
「や、なんでもないです…」

ふと、強まった腹痛にお腹を押さえる。アイオロスさんの蒼い目がこちらを見たが首を振って誤魔化す。余計な心配はかけたくないし、もう薬とかなくても放っておけばそのうち良くなる気がしてきた。原始時代の女の人は薬なんてなくても耐えて来たのだし!そうだ、そうに違いない。放っておこう。・・・ああ、痛い。今回は本当に痛みがひどいな。

「なまえ?」
「なんでもないですって。アイオロスさんこそ、どうしたんですか?暑いから私を呼んだわけではないのでしょう」
「それはもちろん。たまには私がお昼ご飯を作ってあげようと思って」
「あの、私仕事ちゅ・・・」
「なまえ、そんなことばかり言っていると、いつかサガになってしまうぞ!」
「貴方はサガさんをなんだと思っているんです」
「ともかく、なまえにご飯を作ってあげようと思って、デスマスクにパスタの作り方を聞いたんだ!」

そういってのそりとソファから起き上がった彼がにこりと笑う。そして笑いながら手招きをする彼を不思議に思いながら近づいた瞬間肩を掴まれた。

「ということで一緒に作ろう」
「はい?作り方を聞いたんじゃないんですか?」
「ああ、聞いたぞ!そしたら面倒だったのか、なまえが知っているとしか言わなかったんだ」
「デスマスクさんんん!!!」

あの人何気に興味ないことにはものすごく適当だな!押し付けられた感がばしばしとするのは私の気のせいではないはずだ。そうこうしているうちにもアイオロスさんは私の肩を掴んでキッチンに向かう。

「さあ作るぞ」
「あの、ちょっと質問なんですが、アイオロスさんは料理をしたことが?」
「ある、けど…13年くらいやっていないからなあ。あ、でもこの間星矢と一緒にカップラーメンを作っだぞ」
「カップラーメンは料理のうちに入りません」
「大丈夫だ、なまえが見ていてくれれば気合いとフィーリングでなんとかなる気がする」
「それ完全に気のせいですから!!」
「よし、作るぞ」
「もう・・・、あ」

彼のことだ、これ以上何を言っても聞く耳持たないのだろう。だが、せっかく私のために料理をしてくれるというのなら、それは幸せなことじゃないか。それなら喜んで彼の提案を受け入れようかと考える。瞬間、ずきりともずくりともなんともつかないような痛みが腹部に走り、ついそのひどい痛みにお腹を抱えてしゃがみこんだ。ああ、もう、なんたって、今回はこんなにひどいんだろう。腹痛鈍痛、最悪コンビだ。

「い…」
「なまえ…?大丈夫か?腹が痛いのか?」
「や、大丈夫です。気のせいです」

痛みをこらえて笑顔を浮かべる。ああ、なんか額に汗が浮かんできた気がする。いや、大丈夫だ。病は気からというではないか。そうだ、これは気のせい気のせい気のせい・・・、ううん、やっぱり痛い・・・。

「ま、まさかなまえ…!」
「なんですか、アイオロスさん」

立っているのもつらい。とりあえず座るか横になるかしたいけど、そんなことをしているとアイオロスさんに心配をかけてしまうかもしれない。のっそりと立ち上がって、キッチンに向かった私の肩をアイオロスさんが掴む。振り返れば、青い目と視線が絡み合って、アイオロスさんは大きな目をぱちぱちとさせながら口を開いた。

「とうとう生まれるのかい、私たちの愛の結晶!」
「ふざけたこと言っていると、前歯へし折りますよ」

そう言い放って、お腹を一撫でしつつキッチンに向かおうとしたが、肩を掴むアイオロスさんの力が強くそれ以上進むことに失敗する。一体何なのだと彼を振り返れば、ふざけるような笑みは消えて、彼は非常に真面目な顔で私を見た。

「冗談はさておき」
「冗談だったんですか」
「腹が痛いんだろう」
「だ、大丈夫ですよ。放っておけばなんとかなります」
「駄目だ。寝台を貸すから少し横になると良い」
「本当、大丈夫ですよ!なんでもないですから、心配しなくても…」
「なまえ、私に心配をかけさせないようにそう言っているのは分かるが、素直に言ってくれたほうが安心することもあるということを君は理解すべきだ」
「でも、…あ」

痛い。痛みにも空気を呼んでもらいたいものだ。なんで、ここで急にひどくなるんだろう。アイオロスさんが私を見て、その目があまりにも真っ直ぐすぎたのと、お腹が痛いので泣きたくなる。やっぱり薬を探して飲んでくれば良かった。

「なまえ」
「だ、大丈夫です!なんともないです!」
「その顔色でなんでもないはずがないだろう!!!」
「…っ!」

少し大きな声でそう言い切ったアイオロスさんにびくりと身体が震える。彼がこんなに怒るのは珍しいが、何故そこまで怒らせてしまったのか分からずに眉が下がった。アイオロスさんはそんな私を見ると小さく息をついた。かと思えば突然抱えあげられて、驚いて彼の首にしがみ付けば、少しアイオロスさんが笑った気がした。

「う、わ」
「なまえはいつも無理をしすぎだよ」
「そ、そんなこと」
「あるから言っているんだ。とりあえず今は休むんだ。それでも治らない様だったら、ロドリオ村に医者がいるはずだから…」
「え」


い…しゃ…



……医者、…だと…!


医者っていうとあれですか、病院で治療してくれたり医術をつかったり、あとお薬処方してくれたり、たまに人生相談にまで乗ってくれちゃったりするあのお医者様のことですか。それは困る!医者だって突然生理痛です、なんて患者が来たらどうすべきか困るに違いない。というか、それ以上に私が恥ずかしい。本当にただの生理痛なのだ。放っておけば治るものを、どんな顔してお医者さんに会えというのか!!だが、黙り込んだ私をみて勘違いしたのか、アイオロスさんが心配そうな表情で顔を覗きこんでくる。

「なまえ?…すぐに医者のところに行くかい?」

そっとソファに下ろしてくれたアイオロスさんの手が頬に触れた。・・・のは良いとして、彼は今なんと言った?今すぐに医者のところに行くだと?いや、まさかそんな・・・!!

「いやいやいや、行かないです!行かないですから、絶対に!!」
「……何をそんなに嫌がるんだ?まさか、何かを私に隠しているのか」
「隠してないです!隠してないですから、お医者さんのところにだけは!!」
「なまえ」
「う、」
「・・・分かった、なまえがどうしても言わないと言うのなら医者の所に行こう。そして彼に直接聞くから問題ない」
「や、やです!やめてください、アイオロスさん!」
「なまえ、もしなまえがつらいなら、私だってちゃんとそれを理解してあげたいんだ。だから、一番嬉しいのはなまえが自分で、全部教えてくれることだ」

頬に手を添えられて、アイオロスさんが真面目な顔で私の顔を覗き込んできた。

「う・・・、・・・・」
「それが嫌なら医者に聞く」
「わ、わかりました・・・!言います!言いますから、お医者様だけは勘弁して下さいよ!!」
「なら、言ってくれ」
「えっと、・・・う、・・・の・・・ひ、なんです」

ぼそりと呟いた言葉が聞きとれなかったのか、アイオロスさんが首をかしげた。ああ、なんでこんな恥ずかしいことを彼に言わなければならないのか!!顔が熱い。お腹も痛いのだがそれ以上に顔が熱い。だれか、氷を私に頂戴!あ…、カミュさん、氷河君カモーン!!

「なまえ?」

彼に不思議そうに名前を呼ばれ、仕方なく決意を固める。そしてもう一度呟いてみたが、恥ずかしいせいか蚊の鳴くような声しかでず、またもや首を傾げられた。瞬間、私の中で何かがぷちりと切れる。




「・・・お、女の子の日なんです!!悪いですか!私だって生物学上一応女に分類されるんですよ!そしてそれを証明する唯一の日が私にだって来るんです!これで全部です!だからお医者さんのところに行く必要はないんですよ!放っておけば治るんですから!わかりましたか!ああ、もうなんですか、アイオロスさん、その顔は!!」

こんな恥ずかしいことを告白させておいて、あんまりにも呆けた顔をされるとさらに恥ずかしくなってくるじゃないかと頭のすぐ横にあったクッションを彼の顔にぎゅうと押し付ける。ああ、顔が、熱い。おなか、痛いなあ。

お腹を押さえた瞬間、手から離れてぼてりと落ちたクッションのおかげで再び見えるようになった彼の顔は、想像以上に呆気にとられたようなものだった。大きな目がぱっちりと開かれている。

「…生理?」
「みなまで言わないで下さい…」
「別に恥ずかしいことじゃないだろう」
「女の子にとっては重要なんです!」

とくに好きな人にそんなことを告白しなければならないなんて、なんの拷問だ!神様…、あ、それは沙織ちゃんか。じゃあ沙織ちゃん、私が何をしたっていうんだ、教えてくれ!

「…痛い?」
「痛いです」
「だるいかい」
「だるいです。気分は最悪です」

そう言い切ると、アイオロスさんが僅かに目を反らした。それはそうだろう、私だってまさか恋人とこんな訳のわからない会話になると思わなかった。気まずい沈黙が流れる。かちりかちりと時計が時を刻む音だけが響いて、ふとアイオロスさんが立ちあがって私を見た。

「…なにか、暖かなものを淹れるよ」
「す、すみません…」
「謝らない。ココアで良いかい」
「アイオロスさん、ココアなんて持っていたんですね…」
「え?」
「あ、いやなんでもないです。お願いします」

そんなイメージではなかった。どちらかというと、あれだ、彼はココアより川の水を飲んでいそうだ。だからココアを持っていること自体が不思議…いや、これはものすごく失礼だから黙っておこう。

ごろりと横になる。ソファは案外寝心地の良いものだと思ったが、すぐにずくりと腹部が痛み、そこを手で押さえて身体を丸める。

「…いた…」

治ったらすぐにアテネに薬を買いに行こう。もう半分優しさじゃなくても構わない。痛み止めならなんでもいい。次に備えるべきだなと考えていると、目の前にカップが差し出された。

「あ…、ありがとうございます」
「いいや」

カップを受け取る。ほわりと湯気の立ったそれに口をつければ、甘さが口の中に広がる。少しだけ楽になった気がした。アイオロスさんが私の横に座る。暖かなそれを飲んで、カップを机に置き、そのままこてりと横に転がればアイオロスさんが目を丸くして私を見た。

「なまえ?」
「いや、なんか…、丸まっていると楽になるような気が…」

足を丸めて、お腹を抱えてそう言った私に、そうなのかと問い返してきたアイオロスさんに多分と返す。ああ、暖かなものを飲んで少しだけ楽になったのもあるせいか、眠くなってきた。痛い、けど眠い。痛い、眠い、痛い・・・、はあ。このまま眠ってしまえば楽になるだろうか。

「…なまえ」
「はい…?」
「おいで」

丸まった私を見て微笑んだアイオロスさんが膝の上をたたく。

「なにするんです?」
「いいから」

なにが良いんだ。まったく理解できないと考えながらもアイオロスさんに腕を引かれて膝の上に座らせてもらう。ぴったりと背中がアイオロスさんにくっついて、暑いと呟けば彼も暑いと言って笑った。・・・かと思えばおなかに手があてられる。

「はっ…!セクハラですか!!」
「君は私をなんだと思っているんだい」

呆れたような声がかかってきたが、お腹に当てられた手が退かされることは無い。なんだこれ、お腹のお肉チェックですか。そういえば、最近デスマスクさんの作るお菓子が美味しくて食べすぎたせいか、ちょっと太った気が…。じゃあアイオロスさんは私のお腹のふにふに感を確かめているのか?恥ずかしいなそれ!!慌ててふんっ、と腹筋に力を入れたが、それとほぼ同時に何か暖かなものがお腹に流れ込んできた気がした。そして、痛みが引いていく。

「……え?あれ?」
「楽になった?」

そういえば、この間ムウさんとシャカさんがヒーリングがどうのこうのと話していたなと思いだす。私は小宇宙がよく分からないから、その会話はまったく理解ができなかったのだが、今のこれもそうなのだろうかとアイオロスさんの手を見つめる。だが、これは小宇宙というより、まるで



「………魔法みたいです。聖闘士って実は魔法使いなんですか?」
「まさか」

身体がそれに頼るようになるから、この治療法はあまりしないほうが良いんだけど、と彼は苦笑しながら掌を眺めた。その手を握れば、背後から少し驚いたように名前が呼ばれる。

「アイオロスさん、ありがとうございます」
「どういたしまして」
「もうなんともないです」
「それは良かった」

くすくすとアイオロスさんが笑ったが、そろそろタイムリミットが迫っている。そう、つまりこのままくっついているにはまだ私の心臓のレベルが足りないのだ。すでにいつもより三割増しに顔が赤いです、といった感じだ。早く、離れないと、

「あ、あの、もう離れても?」
「私はもう少しこのままが良い」
「暑いですよ」
「愛の力のせいだろうな」
「貴方の頭にはトマトジュースが詰まっているんですか!」

そう言うとアイオロスさんが後ろでくすくすと笑った。そして腕が後ろからのびてきて少しきついくらい抱きしめられる。

「なまえ、シエスタしようか」
「…もう、駄目と言っても聞かないのでしょう、貴方は」
「よく分かっているな」
「仕方がないので同意します。ということで離れてください。このままじゃ寝るのもつらいでしょう?」
「このままでいいと思うぞ」

振り返って話していた私に、アイオロスさんがそう言って笑った。まあ、彼がそういうのなら、このままでも良いかな、なんて考えてしまうなんて私は彼に甘いのだろうか。アイオリアさんがあんまり兄を甘やかすなと言っていたし、あながち間違いではないのかもしれない。
すう、と背後から寝息のようなものが聞こえた。名前を呼んでみても、帰ってくるのは寝息だけ。…のびの○太のような人だ。眠りに落ちるまで早すぎる、なんて思いながらも穏やかな寝息とアイオロスさんの暖かな体温に私まで眠たくなってきてしまった。ああ、そういえばお昼を作っていない。お腹もすっかり良くなったし、たまには二人でご飯でも作ってみようか。ああ、それがいい。そうしよう。アイオロスさんの好きなものを作って、それでゆっくりと遅めの昼食をとることにしよう。だから、今は少しだけ彼と一緒に眠ろうじゃないかと私はゆっくりと目を瞑った。




Good night, my love!
(おやすみ、愛しい人!)

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