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シエスタから目を覚ましたのか、隣でごろりと動いたなまえを見る。
丁度こちらを見ていたなまえがくすくすと笑いながら肌掛けを丸めて抱いた。

「あのね、今朝デッちゃんにね」

まだ少し眠いのか、いつもよりさらに間の抜けた声色のなまえが笑みを隠すことなく言う。

「毎日毎日用もないのにシュラのところに転がり込むとか、お前ヒモじゃね?って言われたからね、ちげーよ私はヒモじゃなくて干物女だよって言い返したんだ。でも意味が通じてなかったから、たぶんデッちゃんはあんまり日本語詳しくないんだなって判断して無知蒙昧の唐変木って怒鳴りつけたら通じちゃって殺されかけたの」

悪いが何を言っているのかまったく理解ができない。
自然と眉が寄るとなまえはそれにもくすくすと笑って再びごろりと一回転した。一気に近づいた距離により、なまえの体温がすぐそばに感じられる。手を伸ばさずとも触れられる距離でなまえは黒曜の瞳を揺るがすことなく俺を見つめていた。

「シュラ」
「なんだ?」
「デッちゃんの言葉を考えたんだけどね、私、シュラが迷惑だって思っているなら遊びに来る頻度を落とそうと思っているの。考え直してみたらちょっと下らない理由でお邪魔しすぎていたかなって思って」

ちょっと下らないなんてものではない。今日は家の時計が止まったため時間が分からなくなったから。昨日は胡椒がきれたから。一昨日は占いの結果が最悪だったから。その前は晴れていたから。とにかくなまえが磨羯宮を訪ねてくる理由は毎回めちゃくちゃだ。だが、それがなまえという女だと思っていたから今までとくに疑問に思ったことはない。

「迷惑だと思ったこともない」
「そう?さすがにマニキュア塗りに来たっていうのは論外だってデッちゃんに言われたんだけど。普通は家で塗るものなんだって」
「あいつの意見は気にするな」
「うーん、でも言われてみると確かにどうなんだろって思い始めたんだよね。いや、ヒモだとは思ってないよ?だって私別にシュラに養ってもらってないし?でもただの友達なのは確かだからさ、毎日磨羯宮に来るのはおかしいのかなって」


個人的には別になまえを養うことにこれといって異議があるわけではない。だが確かに恋人という関係以前の俺たちがそういう行動をすべきでないという事は分かる。未だにただの友人である自分が磨羯宮に来る理由をうんうんと唸りながら考えているなまえを横目にぼんやりと思案し、二つの問題を解決する方法を見つけた。


「なまえ、お前が俺の恋人になれば問題ない」
「恋人っていうとあれだね?ラブパートナーのことだね?確かに恋人ならいつも入り浸っていてもおかしくないね!」
「養う事にも問題はなくなる」
「さすがにそれは問題ありだよ、それ完全なヒモだよ。ヒモで干物女ってそれもう最悪だよ」
「そうか?」
「そうだよ、養ってもらうのは専業主婦だよ」
「俺はそれでも構わない」
「なに、それってプロポーズ?」
「そうかもな」

寝台の上の男女が二人で転がりながらする会話にしては甘さが足りない気がしたが、重要なのは気持ちだろう。恐らく何も問題はないと考えた時なまえがさらに間抜けな声色で呟いた。

「そういえば私たち、今まで友達だったんだね」
「そうだな、友人だった」
「友達ってなんだろうね」
「さあ」
「年中一緒にいたり毎日一緒にご飯食べたり…、それは良いとして一緒にシエスタしたり夜一緒に寝たりするのって友達なのかな?」
「そう思っていればそうなんだろう」

プラトニックではあったから節度は守れていたはずだ。確かに友人よりは近い距離にいたなまえに対し改めて新しい関係を望むのは今更の気もする。だがそれでも距離を置かれるくらいならば一歩踏み出す方が千倍もマシだ。

毎日必ず顔を合わせ、誰よりも近しい場所にいたなまえに対し今更の気もしたが、結局俺はその言葉を投げかけた。


「なまえ、恋人になってくれるか」
「もちろん、喜んで」

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