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「サガさん、サガさん、あの、重かったら言ってくださいね、あと、その…嫌でしたらはっきりおっしゃって頂きたいのですがっていうか本当申し訳ないのでやっぱり辞退してもよろしいでしょうか」

息継ぎもなしに一気に言葉を吐ききる。いつもより近い距離にいるサガさんは私の言葉に少し驚いたような顔をしたが、すぐに穏やかな表情に戻った。

「気にしなくて良い」
「…さいですか…」

蚊の鳴くような、そして消え入りそうな声でなんとか返事をし、目を閉じた。

何故かというと、目なんて開けていられないからだ。
すぐ目の前にサガさんのお顔があるから、それは当然の行為だと私は信じている。天使も花も悪魔も神様も恥らうような麗しい笑顔がこの至近距離にあって平然としていられるのは、きっとサガさんと同じ顔面レベルの方々だけだ。

残念ながらこの世界というものはすべてが格差社会で成り立っている。
財産の格差や政治参加への権利の格差から始まり、顔面格差に至るまでそれこそさまざまな格差が社会の中では常に生まれ続けている。

「不平等だ…!」
「何がだ?」
「なんでもありません」

さすがに私も本人を前に、貴方と私の顔が不平等であるなんていうことはできない。だが本当に心から思う。不平等だと、この至近距離にあるからこそ猶更。

一体どのような状況に私が今置かれているのか、十文字以内で答えてみよう。


うでまくら、なう。


「ああああ…」
「なまえ?」
「あの!本当にもう大丈夫です!重いでしょう!いや私の脳みそはすっからかんかもしれませんけど!一応トマトジュースくらいは詰まっていると思うので!これ以上はサガさんの腕に悪影響を与えてしまいます!」

始まりは、私の一言だったと思う。読んでいた雑誌のモデルのおにーさんとおねーさんが腕枕をしていた。それに対し、ぽつりと「いいなあ」と呟いてしまったことが始まりだった。

いや別に不純な気持ちは一切なかったんです。ただ純粋に、女の子の憧れと言いますか、いいなあと思っただけの話なんです。でもサガさんは、何を誤解されたのか…、いや、確かにちょっと想像したのは事実で否定のしようがないんですが、わざわざ私ごときのために腕を提供してくださりました。…あれ、なんだか口調がおかしくなってきたぞ、でもしょうがない、緊張しているんだ、落ち着こう、落ち着こう、どうしたら落ち着ける?

「ゼウスヘラデメテルポセイドンヘスティアアテナアポローンアルテミスディオニューソス…」
「どう、かしたか?」

落ち着くために最近覚えた神々の名前を口から溢れだした私に、サガさんは少し困ったような顔で問いかけてきた。その表情に幾分冷静さを分けてもらい、ちらりと彼の顔を覗き見る。


本当に、女の私から見ても羨ましくなるくらい綺麗だ。
金髪の長い睫毛は綺麗だし、目だって本当にきれいだ。優しげな笑みが、愛おしくて仕方がない。

だからこそ、サガさんが私を好いてくれて、しかも腕まで貸してくれている事実にどうしようもなく幸せが胸からあふれ出てくる。とうとうこらえきれずに、ぽつりと「暖かいです」と呟いた私に、サガさんは本当に綺麗な笑顔で笑った。

「私も暖かい」

それが限界だった。
一気に沸点に達した私の頭からは、恐らく湯気が飛び出していることだろう。

飛び上るように起き上がり、「もう大丈夫です」と叫んだ。続けてお礼を言おうとしたのだが、残念ながらその言葉は喉に突っかかって出てこない。喉に言葉を突き刺す透明の槍が飛び出てくるレベルで驚愕したからだ。


突然後ろから抱きしめられたのだから。
彼の体重を私に支えることができるはずもなく、再び背後にばたりと倒れこむ。

彼の、腕の中にいるまま。

「ささっさっささ、サガさん?」
「いつもありがとう、なまえ」

それは私の言葉だ。腕枕なんて我儘を聞いてくれた。いつも傍にいてくれて優しくしてくれる。そんな私が彼に礼を言うのは当然として、何故彼が私に礼を言うのだろう。

いや、それもそうだが、それより、いいいいいいい、いいいまの体勢!

「ああああああの、サガさん!?そろそろ私の心臓がハイドロポンプで大爆発を起こすので離して頂けると幸いと言いますか、いや本当に恐れ入りますがここは私の命を助けると思って、…え?あの、サガさん?」

背後から聞こえてきた規則正しい寝息に固まる。
まさか、この人はこの姿勢で眠ってしまったのだろうか。常日頃から仕事づめのサガさんが疲れているのは知っていた。でも、だからってこんな姿勢で寝るなんて!

「なんてこった」

以前も、これと似た状況があった気がする。あの時はなんとか無事だったが、今回はどうだろう。少し状況が違うぞ、なんてったって抱きしめられているのだから。


だから私は非常に心配なのだ。すでに早鐘を打つ私の心臓が、彼が起きるまで無事でいられるのだろうか、と。

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