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「なまえ」

名前を呼ばれて顔を上げた。その瞬間口の中に何かをつっこまれる。口内に広がった冷たさと甘さにそれがジェラートだと気付くのはその数秒後。

「間抜け面だな」
「いきなりジェラート突っ込まれたら誰だって間抜けな顔になると思うの」

肩を竦めて笑う。

「美味しい、ありがとう」

その言葉に、デスマスクは仏頂面で「そうかよ」と言った。でも私は知っている。そんな顔をしておきながら、口元が緩んでいるってことを。


普通の人なら誤魔化されてしまうかもしれない。デスマスクは取り繕うことがとても上手い。でも私はほとんどの場合誤魔化されない。ずっとこの人を見てきたから、些細な変化を見分けられる自信がある。


歩き始めたデスマスクの背中を追う。

私はデスマスクのことが好きだ。
彼を愛していると言っても差支えがない。

彼の気持ちなんて知らないけど。
知らないままで良いけれど、私は、デスマスクが好きだ。


デスマスクが危ない仕事をしていることは知っている。

私のように力のない一般人では逆に彼の足かせになることも知っている。

デスマスクにとって私が重荷になるだろうということも知っている。


私はたくさんのことを知っている。
でも、同時にたくさんのことを知らない。


熱のこもった瞳も、

私を呼ぶ声がいつもより優しく聞こえるのも、

乱暴な口調のくせに腫物を扱うみたいに私に触れることも、

全部、全部。


知らない、そんなものは、知らないよ。
私はいつだってそうして気付かないふりして嘘を吐く。

デスマスクを愛しているから、お荷物になりたくないから、嘘をつく。

なまえ、と私の名前を呼んで、私の手を取ったデスマスクに。彼が何を言おうとしているのか理解しながら、それを阻む。


「デス、これからも素敵な友達でいてね」


愛する人の足かせになるくらいなら、今ここで互いに傷ついたほうがマシだと私は知っている。知っている、本当はそう信じたかっただけだった。

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